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2008-11-11 00:00
オバマ大統領誕生の報に思う
入山 映
サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
史上はじめての黒人大統領の誕生である。1963年キング牧師の有名な演説 ”I have a dream.”、それに次ぐ64年の公民権法成立。68年のキング牧師暗殺といった一連のできごとから、40余年にして米国はこの日を迎えた。その背景についてさまざまな解釈は可能であろうが、多くの独善・短所にも関わらず、米国の持つ理想主義的な一面を鮮やかに体現した現象として、米国国民の英知と平衡感覚に敬意を払いたいと思う。ついでに付言すれば、マケインの敗北演説(consession speech)も潔くて、素晴らしいものであった。
選挙人数でいえば、349対167とまさに「地滑り」的なオバマの勝利に終わったものの、得票数は、52%対46%と意外に差はついていない。わが国の小選挙区制批判に必ず登場する言葉を借りれば、46%は「死票」ということになる。民意の代表者の選定に当たっては、常につきまとう問題なのだが、大統領選のように「ただ一人」を選ぶ場合には、これに異議を唱える術のあろうはずはない。何百人という代議士の選出に当たっては、それなら比例代表制を加味することがより望ましい方法なのかどうか、多くの少数党が存在する国においては、依然として悩ましい問題であるには違いあるまい。それよりも、今回の大統領選で「人種」が争点になるか、という問いに対しては、8割がノーと答えた。が、ふたを開けてみたら白人男性の55%、白人女性の51%がマケインに投票した、という事実をどう解釈すれば良いのか。なお消えやらぬ人種問題の根深さと考える人もいれば、誤差の範囲内だと見る人もいるだろう。
さらに驚嘆すべきは、選挙戦に使用される費用の巨額さである。オバマは資金調達力に自信を持ち、6億ドルを集めて、使途が自由な自己資金で戦ったが、マケインは公的資金依存で、8400万ドルに留まり(!)、それも勝敗に力あったかのような報道も見られる。その過半はテレビ放送に使用されたと伝えられるが、2年間にわたるというキャンペーンの期間の長さを考慮に入れても、日本の感覚からは遠いというべきだろう。これと政府要職の政治的任用(political apointee)を併せて考えると、政治風土の違いは明らかだ。もっとも、ボランティアや地域集会における一般市民の参加、あるいは小額献金の底辺の広さ、といった要素も存在するのだから、一概に金権政治視もまた当を得ないことも確かだ。わが国の政・官・財の癒着構造がこれよりも優れていると胸を張る人も少ないだろう。善悪・当不当のモノサシは国境を超えて押し付けるのがいかに難しいか、という一例かもしれない。水が清ければ魚は住まない。かといって、濁っていれば良いというものでもないのだが。
熱狂的な雰囲気のうちに就任するオバマだが、もちろん彼の前に横たわっている課題は、彼自身が認めているように、短期即決が期待される性質のものではない。とりあえずは彼がブレーンに誰を起用するか、ささやかれているようにマケインの登用がありうるのか。奇しくも太平洋を隔てた二大資本主義国は類似の課題に直面している。麻生さんが、あるいは小沢さんが、いかにして、どれほどの内需喚起に成功するか。オバマの減税政策とイラク撤兵がいかに財政赤字を減少させるか。正念場はむしろこれからだ。
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