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2008-11-01 00:00
(連載)資源保有国は強者で非保有国は弱者か(3)
袴田 茂樹
青山学院大学教授
かつてわが国の資源エネルギー庁が、先に述べたロシアのパイプラインを太平洋岸に「結んでもらう」ために、モスクワにお百度を踏んで、懇願したことがあった。このような姿勢で、日本政府が北方領土問題を交渉できるはずがない。私は、ロシアにとって、早い、遅いの違いはあっても、いずれ太平洋岸にパイプを結ばざるを得ない以上、日本はロシアにとって最も魅力的なエネルギー購入者として、むしろ泰然と構えるべきだと考えていた。もちろん、ロシアと対等の立場で交渉するためには、中国のようにロシア以外のエネルギー資源入手に大いなる努力が必要となることは言うまでもない。そのためにこそ、わが国には戦略的な発想と政策が必要となるのである。
資源エネルギー庁の幹部が、弱者の立場で懇願するような対応をしたのは、ひとつには交渉者としてロシアの立場、つまりその強さと弱さに関する冷静な理解がなかったからであり、また戦略的な発想も欠けていたからである。また、日本政府自体に中国のような戦略的な政策が存在しなかったことも背景となっている。したがって、これは単なる個人の問題ではない。さらに、前述の専門家のような、日本を資源国に対して絶対的な弱者と見るような分析やそのプロパガンダにも、おおいに問題がある。現在は、世界の金融危機や経済危機の影響をもろに受けて、ロシアも経済的に苦しい立場にある。原油価格が、一時のバレル当たり140ドル超から半分以下の70ドルに下落し、その影響をもろに受けている。
ロシアのある銀行家は、ロシアの経済危機を資源大国ゆえの脆さとして、「ロシアの経済成長は天然資源の高価格に支えられてきた。資源依存の経済は、オイルマネーの有効な再配分機構を築くことができず、ハイパー・インフレの危機に見舞われた。そこで政府は、外貨保有と安定化基金を増やした。わが国の経済も徐々に発展して、企業も貿易や生産に資金を要するようになった。そこで今度は、企業や銀行は西側から借入れをするようになった。そして西側は経済危機に見舞われ、ロシアに借入金の返済を求めた。しかし、返済のための借り替えはもはや出来なくなっていた。資源輸出に頼るわが国の経済は、海外の市況にストレートに左右される」(『論拠と事実』10月22-28日号)と分析している。
また、ロシアのある専門家は、資源大国のロシアも、資源の開発コストが上昇するなかで、厳しい国際競争にさらされていることについて、「中央アジアの天然ガスは、近東や北海のガスよりも10―15%安い。ロシアのチュメニのガスと比べると、30-35%も安い。カスピ海沿岸の石油は、近東の石油と同じく、ロシアの石油よりも25-30%安い。北極海の開発はまだこれからであり、多くの資金も要する。今日、ロシアの金融市場は急速に下落しており、ロシアから資金が大量に流出している。世界市場への搬出が容易で、なおかつロシアの外貨収入にも貢献する石油やガス資源が求められている」(『独立新聞』10月14日号)と述べている。
ロシアとの経済関係や協力関係の発展は極めて重要である。相互の信頼および相互利益の関係の発展もたいへん重要だ。しかし、その際はっきり自覚しておくべきことは、「資源保有国が絶対的な強者で、非資源国が絶対的な弱者だ」という認識は、完全に間違いだということである。日本が対露交渉でもし弱者の立場に立つとすれば、それは資源がないためではなく、国家戦略の欠如のゆえである。(おわり)
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