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2008-09-23 00:00
(連載)バンコクの熱い夏(1)
進藤榮一
筑波大学大学院名誉教授
某月某日、バンコク・スワンナブーム空港に着く。真夜中と思えぬ賑わい。敷地面積で成田の3倍、7階建て、延べ床面積、世界一。アジアのハブを目指す威容ぶりに、圧倒される。10年前のバーツ危機に端を発するアジア不況の嵐が、嘘のようだ。名目成長率8・6%、一人当たり国民総生産高、約3700ドル、いまやアジア随一の中進国に急成長した。かつての韓国、台湾を想起する。
翌朝早く、巨大な水産卸売市場企業を見学。世界有数の規模を誇る。食の安全水準の高い、米国とEU市場を、最大の得意先とする。その後、タイ冷凍食品協会で、農水食品産業の現況の講義。水産食品産業で、アジアと世界をリードする、同国の経済発展の源泉を垣間見る。この国では農水産業が、高付加価値化した「六次産業」として発展戦略の中に位置付けられ、政官業が提携プレーを進める。
故国の無策と立ち遅れを思う。原油高騰で出漁ストライキ入りした報道が、ここではおとぎ話のようだ。午後、貧困削減の一村一品運動の現場をへて、近郊の有機栽培農場を訪ねる。女性村長さんの経営。ここでも安全基準の高いEUが、最大市場だ。ハサップ(国際衛生管理基準)をはじめ、多くの環境基準をクリアし、「変わる世界」を相手に商圏を拡大しながら、地球環境保全の理念を貫く心意気を見る。
某月某日、現地調査の2日目、タイ随一の冷凍食品企業、ロイヤル・フローズン・フードを訪問。創業30年弱の若い会社、従業員4万人、2代目社長が、冷凍食品工程現場を案内する。徹底した食の安全の経営方針が、アジアの業界トップに立つ急成長の秘密だ。いまや工業分野だけでなく、農水産食品分野でも、素材部門から先端技術、経営企画に及ぶ産業クラスター(集積基地)の存在が、産業発展の不可欠の条件と化す。タイ食品産業の現在が、その発展を実証する。
午後、タイ有数のカセサート大学内の、アセアン食料安全保障情報システムと、東アジア緊急コメ備蓄機構を訪問する。災害や飢饉に備え、アセアンと日中韓三国が提携設立した、食料安全保障のためのアジア國際協力機構だ。東アジア共同体構想の制度化を現場で見る。新しいアジアが、着実に生まれている。(つづく)
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