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2008-09-12 00:00
朝鮮半島は、やはり中国の「鬼門」?
大江志伸
江戸川大学教授・読売新聞論説委員会特約嘱託
中国は2万2000キロと世界最長の陸地国境線を擁する国である。国境線で接する国々は、これも世界最多の14か国に達する。そのなかで最長の4300キロの国境を挟む中露両国が今年7月、アムール川(中国名:黒竜江)の大ウスリー島、タラバロフ島(中国名:両島で黒瞎子島)の国境線を画定させる合意文書に調印した。ロシアが79年間実効支配してきた黒瞎子島の西半分は9月中にも中国に引き渡される。交渉開始から実に40年余、武力衝突まで勃発した国境画定問題は最終決着した。近年、中国の近隣外交は目覚しい成果をあげつつある。2006年、中国はベトナムおよびラオスとの国境線を画定させる条約に調印した。同年、中印関係でも胡錦濤総書記(国家主席)が前年の温家宝首相の訪印に続いてニューデリーを訪問し、国境問題の早期解決を確認している。中国とロシア(旧ソ連)、ベトナム、インドの3か国は、領有権問題などで戦火も交えた。3か国との国境画定や交渉進展によって、中国の近隣外交は最安定期を迎えたといえる。
そうした状況の下、ほぼ唯一の例外といえるのが、1400キロの国境で接する北朝鮮である。周知のように、中国大陸の東北に位置する朝鮮半島は中国近代史にあって「鬼門」となってきた。朝鮮半島の覇を競い敗れた日清戦争は清朝滅亡の序曲となり、新中国成立翌年に起きた朝鮮戦争では人民義勇軍の参戦を強いられ、戦死者100万人(西側推計)の惨禍を招いた。「朝鮮半島の変事は、中国の国難につながる」という近現代史の教訓は、今も中国の半島政策の根幹を成す。「中国政府は朝鮮半島の平和と安定を望んでいる」と歴代の中国首脳が繰り返すのは、歴史の教訓を踏まえた掛け値なしの願いなのである。
その「鬼門」がまたも泡だっている。金正日総書記は建国60周年(9月9日)行事に姿を見せず、健康に異変が起きた可能性が強まったからだ。異変説の真偽のほどはともかく、平壌の内部事情に精通している中国が、最も神経を尖らせているのが、「ポスト金正日」の北朝鮮動向だ。筆者は北京駐在などを通じ、秘密のベールに包まれた中国の北朝鮮政策を追ってきたが、長く中朝関係に携わってきたある中国政府元高官の発言が頭から離れない。「中国は金正日が生きている限り、北朝鮮政策を変えることはない。条約にも手をつけない。条約は中朝関係の根幹をなすものだ。金正日は金日成の息子であり、政治経歴は今の中国の指導者よりずっと長く、中国側も実際には一目置いている。問題は金正日後だ。平壌に『反中国』政権ができるとすれば、中国は様々な手段を使ってこれを排除し、『親中国』の政権ができるように画策するのは間違いない。中国にはその力がある」と。
発言中の「条約」とは、中朝間の軍事同盟を定めた「中朝友好協力相互援助条約」を指す。中韓修交(1992年)以降、中国側は「派兵条約ではない」として軍事条項棚上げ論を折りあるごとに強調している。無論、軍事介入は北朝鮮が武力攻撃を受け、戦争状態に陥った場合に限られる。金正日死去というXデーが現実になっても、そうした事態は想定しにくい。中国の主張通り、「軍事同盟は過去のもの」かもしれない。一方で、同条約第4条は「締約国は、双方のいずれかの利益に関係あるすべての重大な問題について、互いに協議する」ことを誓約している。やがて現実のものとなる「金正日後」の北朝鮮が混乱の果てに「反中国」へ傾いた時、条約は「協議」の大義名分となることを忘れてはならない。
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