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2008-08-29 00:00
(連載)雁行形態の終焉(1)
入山映
サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
深川由起子早稲田大学教授が「雁行形態アジア観の終焉」という興味深い記事を執筆されている(8月18日付け朝日新聞)のは、お読みになった方も多いと思う。20世紀末に、日本を先頭にしてNIESがあたかも雁の群の飛行のように経済発展を遂げてゆく、というモデルが唱道された。ところが、深川氏によると、韓国については、事態は全く別の様相を示しつつあるという。
グローバリズムの負の側面への対処に当たって、韓国は通貨危機後の不良債権処理で先行し、ITにおいても世界最先端をゆくのみならず、空港・港湾等のインフラ整備に当たっても「ばらまき」は行わず、あくまでも国際競争を念頭に置いた整備を図った。さらに中国・インド・ロシアなどの新興市場にいち早く進出したのみならず、これまでの因習にこだわらないビジネス手法で、日本ブランドを圧倒し去った。文化芸術においても、「韓流」として輸出産業に仕立て上げた。難航するWTO多国間交渉に見切りをつけ、野心的な二国間FTAに踏み切ったのも、韓国がアジアで一番早かったという。日本の後を追って、どころの騒ぎではない、という訳だ。
強硬な労働組合や感情に流されがちな市民団体などへの目配りをしているところを見れば、深川論文が単純な韓国賛歌でもないことは明らかだ。のみならず、多国間交渉に「見切りをつけて」二国間交渉に走るのが、世界経済にとって望ましいか否かも、深川氏はもちろん先刻ご承知の筈である。そもそも雁行形態発展論の終焉自体、これまでにも中国やITとのコンテキストにおいて、しばしば論者の指摘するところであり、それとしては目新しいものではない(終焉論が日本の論客によって否定されるのを常としたのも、改めて指摘するまでもあるまい)。
とすると、深川氏の今回の問題提起は、日本優位を所与のものとして極楽とんぼになっていないで、学ぶべきものは後発国の政策からも学んではどうか、というメッセージと読むのが妥当なのかもしれない。しかし、問題はその先にある。当然とも見えるグローバル化世界への対応を阻害し、遅延させ、あるいは逆行さえしているように見える、日本の基本的な問題はどこにあるのか、という点だ。(つづく)
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