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2008-08-19 00:00
東アジア共同体と主権の委譲
近藤健彦
明星大学教授
第26回政策本会議「東アジア共同体構想をめぐる中国の動向」の速記録中、袴田茂樹青山学院大教授の主権に関する的確な指摘が目に留まった。すなわち、「欧州の共同体は、単なる経済的な組織としてではなく、各国の主権から自立した、戦争や国家の衝突を避けるためのものです」という指摘である。ジャン・モネの欧州統合の定義は「ジェネラル・インタレストのための国家主権の部分委譲」である。これに対し、賢いアジアの識者は主権に触れると「竹島問題」のようになるので、これを意識的に避けているのかもしれない。だが、議論が進むと、これは避けて通れない問題である。東アジア共同体は「主権の委譲なき共同体」なのか?単なる「経済協力共同体」なのか?ジャン・モネは「そんなものは統合ではない」というだろう。
主権国家で成り立つ近代国家で主権を委譲するのは極めて困難である。英国が欧州統合にネガティブだったのは、これにひっかかったからである。モネが「主権統合」などをなぜ構想できたか?フランスは第一次、第二次大戦でドイツに占領されて、主権がなくなったからである。モネの発想は、もともと戦時の発想である。第二次大戦後も、モネの思想が何とか通ったのは、朝鮮戦争で「第三次世界大戦の脅威」があったからである。モネはこれを上手に使った。アデナウアーがモネの構想をなぜ受け入れたか?かれは「道徳的義務」だと美辞をいっているが、その実は、当時ドイツは占領下で主権がなかったからである。国は主権を失っていないと、主権を委譲はしない。フランスでも、平時になるとドゴールが最後までモネに抵抗する。
主権委譲の最適例は「ユーロ」である。なぜフランスは通貨主権を欧州中銀に委譲したか?事実上フランスの通貨主権が崩壊していたからである。金融のグローバル化が進むと、主導的なドイツが金利をフランスと相談せずに上げ下げしても、フランスは不承不承それに追随するしかなかった。それなら、むしろ欧州中銀のインナーになってフランスの立場を反映させた方が得だ、フランスはそう考えたのである。つまり「金融の「グローバル化は国家主権を侵食する」のである。話は飛ぶが、これを東アジアに応用して、厄介な主権論争を回避できないか?これが私の東アジア通貨単位構想の発想の原点である。
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