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2008-07-21 00:00
東アジア世界の「共通の資産」としての道家思想
櫻田淳
東洋学園大学准教授
北海道洞爺湖サミットでの議論で浮かび上がったのは、2050年までに温室効果ガス排出量を半減させるという長期目標に絡む主要8ヵ国と新興国との対立である。この対立を前にして、たとえばMEM(主要経済国会合)の場で主要8ヵ国が新興国を説得する局面は多くなるであろうけれども、その説得の「本丸」が中印両国であるのは、あらためて指摘するまでもない。ところで、古代中国・春秋戦国期に成立した『道徳経(老子)』(守道第59)には、次のような記述がある。
「人を治め天に事うるは嗇に若くは莫し。其れ唯嗇なる、是を以て早く服す。早く服す、之を徳を重ね積むと謂う。徳を重ね積めば即ち克たざる無し。克たざること無ければ、即ち其の極を知ること莫し。其の極を知ること莫ければ、以て国を有つ可し。国を有つの母、以て長久なる可し。是を根を深くし、柢を固くすと謂う。長生久視の道なり」と。要するに、この件の趣旨は、「統治」の根本には「嗇」(慎ましさ)が大事だということである。無理な「富国」の策は、早晩の破綻を免れない。そして、『道徳経(老子)』(弁徳第33)には、「足るを知る者は富み、強めて行う者は志有り」と記される。
地球環境破壊に歯止めを掛けるためには、こうした『道徳経(老子)』の記述に示唆される姿勢の意義は、確かに確認されるべきものである。「足るを知る」価値観に裏付けられ、「嗇」を念頭に置いた国家運営が諸国で行われなければ、地球温暖化に象徴される地球環境の破壊、あるいはエネルギー・資源の枯渇は、劇的に進むであろう。中印両国のような新興国にとっては、自らの発展を抑え付けるかのような議論は、受け容れられないかもしれないけれども、地球の現状は、その全幅の発展には、もはや耐えられないのである。
古来、儒家の思想は、東アジア世界では「共通の資産」として考えられてきたけれども、今後の世界を展望するならば、道家の思想こそが、東アジア世界の「共通の資産」として提示されるべきものであろう。現下の中国政府にも、この意味は適切に伝えられる必要がある。逆にいえば、こうした古人の知恵に現下の中国政府が意を用いなければ、地球の危機は深まる一方である。そして、そうした東アジア世界の「共通の資産」を共有する日本の人々にも、それを絶えず喚起していく責任があるのではなかろうか。
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