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2008-07-14 00:00
「不安定の弧」再燃で問われる日本の東南アジア外交
大江志伸
江戸川大学教授・読売新聞論説委員会特約嘱託
麻生太郎前外務大臣が、日本外交の新基軸として「自由と繁栄の弧」構想を華々しく打ち上げて2年もたたないのに、昨今では話題にさえならなくなった。「ユーラシア大陸に沿って自由の輪を広げ、普遍的価値を基礎とする豊かで安定した地域を形成する」という壮大でチャレンジ精神に富む構想である一方、急台頭する中国包囲網につながる側面も指摘されてきた。新構想の事実上のお蔵入りは、日米同盟の強化とアジア外交との「共鳴」を掲げる福田政権の誕生と無縁ではあるまいが、何より国際情勢の変化という要素が見逃せない。「自由と繁栄の弧」の対象地域を見渡すと、自由、繁栄とは逆に、政情不安や経済難に苦しむ国々が続出している。
対ロシア外交で国内の亀裂が深まるウクライナ、米国の中東戦略の要ながら国是である世俗主義をめぐり動揺するトルコ、和平への糸口すらつかめない中東情勢、貧富差拡大など経済成長の負の側面が目立ってきたインド、政治危機が常態化したパキスタンとアフガンでのタリバン復活と、枚挙にいとまがない。さらに東に目を転じると、タイでは、クーデターで追われたタクシン前首相の復権を露骨に進めるサマック政権への反政府活動が活発化、これに選挙違反による与党解体の動きまで加わり、政権崩壊の可能性が出てきた。マレーシアでは、今年3月の総選挙で大敗したアブドラ政権が弱体化し、アブドラ首相は2010年の退任、ナジブ副首相への権力移譲発表に追い込まれた。インドネシアのユドヨノ政権は、経済政策でつまずき、支持率は急落の一途である。
米国は自身の世界戦略上、「自由と繁栄の弧」と重なる地域を「不安定の弧」と位置づけてきた。最近の「不安定の弧」の再燃は、住宅問題に端を発した米国の金融危機、原油・資源や食料の高騰という要因に加え、各国が抱える構造的問題が密接に絡んでいる。タイの危機再燃の背景には、強権を乱用したタクシン政治に対する国論分裂があり、マレーシアのそれは、マレー系を優遇するブミプトラ政策と事実上の一党支配に対する不満の高まりが根底にある。インドネシアのユドヨノ政権は、国民の期待が高かった汚職追放で成果をあげられず、物価高騰が国民の不満に火をつけた。悪性インフレの様相を強めるベトナムでは、経済危機が政治危機に転化する兆しが出ている。どれも一朝一夕には解決できない難題ばかりだ。
東南アジア諸国連合(ASEAN)の中核を成すこうした国々の政情不安が激化、長期化すれば、経済、社会、政治の各面で新たな統合段階をめざして再スタートを切ったASEAN体制が停滞もしくは後退しかねない。「不安定の弧」の再燃を未然に防ぐためにも、ASEAN諸国と日中韓そしてインドなどの周辺諸国は、地域統合と協力強化をいっそう真剣に探る必要がある。いまだ計画段階の域内の原油備蓄や食料政策、通貨スワップ制度のさらなる拡充など、とりわけ日本がリードすべき課題が山積している。今月末にはASEAN地域フォーラム(ARF)が開催される。北朝鮮の核問題を話し合う6か国協議が東アジア安全保障機構の色彩を強める中、ARFの機能強化などを通じて、機動的な地域協力の確立に努めることが、「自由と繁栄の弧」への近道となる。
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