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2008-07-10 00:00
「6カ国協議」と「北東アジア安保機構」構想
茂田 宏
元イスラエル大使
7月2日付日経新聞は、7月1日、ヒル米国務次官補が「6カ国協議」が「北東アジア安全保障機構」に発展することに強い期待を表明したと報じている。更に、ライス米国務長官が先に訪中の際中国側とこのような安保機構の可能性について協議したことも明らかにした、と報じている。この構想はこれまでも米側関係者から私も聞いたことがある。しかしこの構想には、日本から見ると大きな問題が伏在している。
日露戦争前から第1次大戦直後まで、日本はその外交の機軸を日英同盟においていた。然るに、1921年、米のハーディング大統領の提唱により、ワシントン会議が開催され、「ワシントン体制」と呼ばれた多数国間の安全保障体制がアジア太平洋で設立された。その内容は、太平洋上の領土と権益の相互尊重と現状維持を約した「4カ国条約」(1921年12月)、米、英、日、仏、伊の主力艦比率を5・5・3・1.67・1.67とする「海軍軍縮条約」(1922年2月)、中国の主権・独立・領土保全の尊重、中国における門戸開放と機会均等を約した米・英・日・仏・伊・中国・オランダ・ベルギー・ポルトガルの「9カ国条約」(1922年2月)であった。
この多数国間体制がアジア太平洋の平和を保障するということで、日英同盟は解消された。この後、外交の基軸であった日英同盟を失った日本は漂流をはじめ、中国の民族主義の高まりの中で、中国内の権益擁護、満州事変、最後に対米戦争へと突き進んでいった歴史がある。北東アジアの安全保障はこれまでのところ、日米同盟と米韓同盟という民主主義国の同盟と中国、ロシア、北朝鮮が対峙する形で、いわばそのバランス・オブ・パワーで維持されてきた。特に日米同盟がアジアでの安定に果たしている役割は大きい。
「6カ国協議」を「北東アジア安保機構」に発展させる際、日米同盟はどうなるのか。この機構では、北朝鮮の核問題は取り扱えたとしても、台湾の問題、中国の軍拡問題、ロシアの軍拡問題は取り扱えるのか。「現存国境の尊重」ということになると、北方領土問題はどうなるのか。色々な疑問や懸念がある。昔、ソ連は「全アジア安保構想」を打ち出し、多数国間の安保体制を提唱し、日米同盟などに楔を打ち込もうとしたことがあったが、日本はそういう構想には反対した。それとどう違うのか、との疑問もある。
ライス長官やヒル次官補は、欧州には多数国間の安保機構があるから、それに倣って、北東アジアでも多数国間の安保機構を作るべきである、との単純な発想のように見えるが、北東アジアとヨーロッパの情勢は異なる。こういう構想が、政治的、心理的に地域に与える影響や日米同盟に与える影響をもっと慎重に検討すべきである。そういう検討なしに、こういう構想を推進することに、日本は明確にノーというべきであろう。今機能しているものを、機能するかどうか不確かなもので、置き換えるようなことは危険である。追加であるからと了承していたところ、置き換えになってしまったという危険がある。なお、安全保障についての意見交換の場としては、東南アジア諸国も巻き込むアセアン・リージョナル・フォーラム(ARF)が既にある。
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