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2008-06-30 00:00
山拓対安倍“抗争”の意味するもの
大江志伸
江戸川大学教授・読売新聞論説委員会特約嘱託
地味で内向き、ダイナミックさに欠ける日本の内政にあって、珍しく論旨明快、熱のこもった大物政治家による「抗争」が持ち上がっている。対北朝鮮外交で「対話」重視の山崎拓・前副総裁と「圧力」一辺倒の安倍晋三・前首相による「舌戦」である。新聞報道によれば、安倍氏が6月18日の講演で、山崎氏が会長を務める日朝国交正常化推進議員連盟の活動を「百害あって利権ありか」といやみたっぷりに批判したのが発端。その1週間前に北京で行われた日朝実務者協議で、日本政府は制裁の一部解除の方針を表明している。これに不満を募らせる安倍氏が批判の矛先を山崎氏に向けたとの説がもっぱらなのだが、山崎氏は「私は利権政治家ではない」と激怒、安倍氏に謝罪を求めた。この種の「舌戦」はこの辺で幕となるのが普通だが、今回は第2ラウンド突入の様相が強まっている。
6月26日の北朝鮮による核計画の申告書提出を受け、米国がテロ支援国家指定解除に着手したことで、両者の対立がいっそう先鋭になっているためだ。指定解除について、安倍氏は「拉致問題が全く前進しない中、本当に残念」と米国を批判、国際的な制裁継続を訴えた。逆に山崎氏は「日朝国交正常化、米朝国交正常化、朝鮮半島の非核化の同時進行を5か国が結束してやっている。日本が足を引っ張ることは許されない」と、安倍氏を筆頭とする対北強硬派を批判。6月28日に地元テレビに出演した際には、安倍氏の首相在任中の対北朝鮮外交について「結果が出ていない。犬の遠吠え的なところがあった」「安倍氏には核問題の視点が欠けている。北朝鮮の核兵器が日本に向けて発射されると壊滅状態になる。日本国民は核問題の重要性をもっと強く意識しないといけない」と“拉致一辺倒”の姿勢に追い撃ちを加えた。
伊吹自民党幹事長が「議員の節度を保って」と苦言を呈したように、互いに品性に欠ける言動となったのは確かだが、バトルの中身自体は極めて健全だ。大いに議論を戦わせてほしい。というのは、安倍政権まで、北朝鮮に対する日本の姿勢は官民を問わず「強硬策」一色に染まり、対北対話路線、懐柔策などは議論すらできない、という異常な空気が列島を覆っていたからだ。今回の山拓・安倍バトルは、東アジア情勢最大の不安定要素である北朝鮮問題の解決という大局の中、状況の変化に対応しながら拉致問題の早期決着はどのようにすれば可能か、という当然の政策論争が背景となっている。
米国のテロ支援国家指定解除に対する日本側の批判の高まりに対し、民主党の前原誠司副代表は6月27日の京都市内の講演で、「6か国協議は、(北朝鮮の)核問題の解決のための枠組みで、日本の拉致問題のために作られたものではない。アメリカが国益にかなうと判断すれば、テロ支援国指定を解除するのは当たり前だ」「拉致問題の進展まで期待している日本政府は、アメリカに甘えすぎている」と述べ、経済協力やエネルギー支援に参加すべきだとの考えを示したという(6月28日付、読売新聞朝刊)。こうした発言も以前なら、「公表」を躊躇した「正論」の一つであろう。時には国を挙げて「強硬策」一本にまとまることも必要だろうが、弊害も多い。ムチもアメも、多彩な対応策を繰り出せる政治環境と世論、そうしたものが今後の日本の対北朝鮮外交に求められることになるだろう。
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