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2008-06-29 00:00
アジアの地域横断的FTAへの疑問
山下英次
EUI・ロベール・シューマン高等研究所 客員フェロー
6月19-20日に、ベルギーのブリュージュで開催された国連大学比較地域統合研究所(UNU-CRIS)主催の地域横断的なFTAに関するワークショップにスピーカーとして招かれ、出席した。ちなみに、このワークショップのサブタイトルは、「グローバル経済におけるEUの戦略」となっていた。この会議に出席してつくづく思ったのは、地域横断的なFTAに対する立場は、EUとアジアでは、本来全く異なるはずであるということである。EUは、このところ、韓国、ASEAN、インドなど域外とのFTA交渉に熱心である。EUのこうした戦略は、私としてはよく理解できる。域内の地域統合は、すでにかなりの程度進展した段階に達しているし、他方、WTOの多角的貿易交渉は行き詰っている。そうした状況を背景に、EUとしては、それでは次に域外とのFTAを模索しようということである。
しかし、アジアの立場からすれば、まだ地域統合は始まったばかりであり、域内のFTAすらできていない。私の考えでは、アジアはいま域外とのFTAを模索すべき時期ではなく、域内の地域統合に専念すべきである。域地域統合にとって最も重要なのは、間違いなく域内の結束(cohesion)強化であるが、域外のFTAはこれを損なう恐れがあるからである。地域横断的なFTAの動きが、このところ活発になってきたのは、米韓FTAの合意(2007年4月)が、EU、中国、日本などを刺激したことに始まる。EUが、韓国とのFTA交渉を開始したのは、明らかに米韓FTAに刺激されたからである。韓国は先進工業国であると同時に、経済の規模がそれほど大きくなく、EUにとって域外とのFTAのパイロット・モデルとして最適ということもある。
それにしても、韓国のノ・ムヒョン前政権は「何を考えているのか」非常に分かりにくい政権であった。アメリカとの全般的な関係が非常に悪かったために、その政治的な埋め合わせ(political compensation)として、部分的には必要以上に妥協してしまったことがあるように見える。イラクへの3000名に上る韓国軍の派兵や米韓FTAがその良い例ではないかと、私には思えるのである。合意前には、多くの韓国の専門家は米韓FTAに反対であった、と私は理解しているが、合意後は変わってしまった人が多いのかもしれない。
いずれにせよ、アメリカで民主党政権が誕生すれば、米韓FTAは米国では批准されない可能性が高いし、韓国国内でもその可能性は十分にある。米韓FTAは現実には発効しない可能が大いにある、ということである。他方、今回のブリュージュでのワークショップで韓国EUのFTAについて報告したフランス国際関係研究所(IFRI)の主任研究員フランソワーズ・ニコラスによれば、韓国とEUのFTA交渉は順調であり、米韓FTAの際のようなコメや牛肉といった非常に厄介な問題はないので、今年中にも合意が成立する見込みは高い、ということであった。
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