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2008-06-26 00:00
悪ガキ金正日に振り回される米国と日本
入山映
サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
「家に火をつけるぞ」と脅かして、それをやめる代わりに「あれをよこせ」。舌の根も乾かないうちに、「お宅の犬を毒殺するぞ」。しない代わりに、仕事をせしめる。あげく仕事で塗りかかった壁を途中でやめて、「みっともないから続けろ、というのなら、もっと賃金を上げろ」みたいな話を延々と続ける。この悪ガキ・スタイルがご存知将軍様の外交術だ。それでも核兵器を持っている(らしい)からか、それとも国内にてんで資源がないせいか、「制裁」「民主化」のための軍隊を送ろうという国もない。なまじ石油資源が豊かだったばっかりに、ありもしない「大量破壊兵器」がある筈だ、と因縁をつけられた挙句、政権をひっくり返され、国をめちゃめちゃにされた上に、リンチも同然に殺された、どこかの国の大統領とは大違いだ。
たどるのも馬鹿馬鹿しいようなものだが、一体将軍様のお約束なるものが、どれほど猫の目のように変わったか、を少しだけトレースしておこう。最近だけでも、2005年9月の六者会談で北朝鮮は「全ての核兵器と既存の核計画を放棄する」と約束。その代わりに「時期を見て軽水炉を供給する」というご褒美を取り付ける。ところが、マネー・ローンダリングに神経を尖らせた米国財務省がマカオの将軍様の口座を凍結。すったもんだで「約束の実行どころではない」と言い出して、それが再び軌道に乗ったのが2007年2月。ここでは北朝鮮が、第一フェーズとして「60日以内の寧辺原子炉の運転停止」の約束と引き換えに、「重油5万トンの供給」を受け、さらにそれが実行されれば「重油百万トン相当のエネルギー援助、さらにテロ国家指定の取り消しも検討する」との言明も取り付ける。ところが今度は「北朝鮮資産の凍結解除ができていない」とゴネ始めて、オカネが将軍様の懐に入るのを待って、60日どころか、やっと4ヶ月後に原子炉操業停止。これについては、あのおめでたいヒル国務次官補が北朝鮮側と1月にベルリンで密約を交わしたのではないか、との疑惑があり、日本はすっかり蚊帳の外扱いされた、とも報じられた。これを承けて2007年10月には第二フェーズの約束ができ、とまあ、これからも延々と似たような外交術が続き、第二の後は第三フェーズだろう。それが「いくらにつくか見当もつかない」とヒルがいっている、というのだから、困ってしまうが、指摘しておかねばならぬ点が二つある。
一つは、「全ての関連事案は、6カ国協議の枠内で決定されるべき」という基本方針で、これに対して北朝鮮が「なんとか米国との二国間の話し合いに持ち込みたい」との姿勢を崩さないこと。しかもそれに、米国側がなし崩しに乗っかってしまっているのではないか、という点だ。二番目はいうまでもなく北朝鮮による日本人拉致問題で、日本は「この解決なくして、問題解決なし」という立場を一貫して取っている。拉致問題に関して「進展」がない限り、テロ国家指定は取り消さない、というブッシュ大統領の約束もある。
ライス国務長官が最近、北朝鮮の核関連設備の廃棄などこれまでの約束の完全実施を前提に「テロ指定を解除する」と発言。これには拉致問題の進展も含まれるだけに、一体北朝鮮から何がどう出てくるのかが、注目を集めることになった。しかし、拉致に関していえば、全面解決はおろか、何人かの生存者の帰国でお茶を濁されるのではないか。その時日本はどんな対応をするのか、というのが福田さんの一番頭の痛いところだろう。かたやレームダック、こなたねじれっぱなし、というのでは、将軍様の付け入る余地は沢山ありそうだからだ。6カ国会談はもう間もなく始まる。先ず間違いなく北朝鮮は「寧辺原子炉無力化」は議長国たる中国に提示するだろう。しかし保有している核爆弾の量と所在、さらにはその他核関連施設の所在とその操業問題、さらには査察手続きをめぐって、10月合意の「完全実施」の解釈問題で再度おなじみの外交が始まる可能性も大きい。米国が、そして日本がどう対応するか。それにしても、こういう悪ガキはどうしたものでしょうね。
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