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2008-06-19 00:00
日本はアジア文化の多様性保護に貢献を
安江則子
大学教授
久しぶりにパリを歩いた。UNESCOでの調査が目的であったが、変化も目に留まった。カフェ文化の国にもスターバックスは進出していた。日本やタイなど東洋の香辛料を使ったフレンチの人気も高い。お皿の中のグローバル化である。今世紀に入って採択されたUNESCOの「無形文化遺産保護条約」(2003年)や、「文化的表現の多様性保護条約」(2005年)について、一般人の認知度は低いであろう。それでも、エッフェル塔とオルセー美術館の間のセーヌ川沿いに2006年に誕生した新名所<ケ・ブランリー博物館>は、アフリカ、東南アジア・太平洋、ラテンアメリカ地域の、文化人類学的に貴重な品々を収め、まさにUNESCO精神を体現したような多様な文化の宝庫であり、人々の新しい散策の場となっていた。ジャン・ヌーベルの設計の建物と景観建築家ジル・クレモンによる庭園は、先住民の生命力と都市の洗練をあわせもつ21世紀的感性でまとめられている。
日本は、無形文化財の価値を認め保護する国内的な伝統と制度をもった国である。世界遺産を多く抱える欧州諸国は、有形の文化遺産の保護に熱心でも、無形文化の価値について理解するには時間を要した。生物の多様性保護が重要なのと同じく、文化の多様性、特に無形文化としての芸能や造形が人類の共通財産であるという考え方は、国際的にも受入れられつつある。アクロポリスやノートルダム寺院のような堂々とした世界遺産をもたない国々にも、自国の文化に自尊心をもたせ、発展への動機づけとなる。紛争後や災害後の復興支援についても、文化への配慮はその後の開発に大きな意味をもつことは実証されている。文化の保護は環境保護と密接な関係があることも、近年よく議論される。
文化の多様性を認めることは、マイノリティを抱える国にとって政治問題だと思われるかもしれない。けれども少し意外なことに、多様な民族集団を抱える中国やインドは、UNESCO条約による無形文化遺産や文化的多様性の保護に積極的である。多様性を認めることは、多民族統治にとって不可欠である。その他のアジアの国々も、自らのアイデンティティの国際的な認知につながるとして、歓迎している。無形文化遺産の保護のためのアーカイブ作りなど、日本が提供できる技術支援は多い。日本はサービス貿易の自由化との関係などで、「文化的表現の多様性保護条約」の批准にやや消極的であるが、アジアの国や地域の文化への共感と支援は、日本外交にとって新たな切り口となっていくと思われる。
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