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2008-06-02 00:00
現下国際金融システムの「絶対矛盾」
山下英次
EUI・ロベール・シューマン高等研究所 客員フェロー
今回の危機は、素性の良くないサブ・プライム・ローン問題に端を発した単なる流動性危機もしくは信用危機などではなく、早晩米国住宅市場全体のバブル崩壊につながるであろう。そして、それはアメリカ経済全体のバブル崩壊という事態に発展する可能性が大きい。米国経済は、長年にわたって、ほとんど爪先立ちの状態で、無理に無理を重ねてきた。国民が、分不相応の生活水準をひたすら貪欲に求め、政府もそれを後押ししてきたてきたのである。その結果、国内の貯蓄率は、ほとんどゼロになってしまった。いわば、身から出た錆であり、同情の余地は全くない。
今回の危機で問われているのは、(1)投資銀行を中心としたウォール・ストリートの目を覆いたくなるようなモラルの欠如、(2)アングロ・サクソン流の市場万能主義の弊害としてのマネー・ゲームの行過ぎ、(3)国際収支を全く無視した米国マクロ経済政策運営の完全なる失敗、である。いずれも、米国内に問題の発生源がある。実は、1971年8月のニクソン・ショック以来これまでずっとそうであったのだが、今後ますます米国こそが世界経済における最大の攪乱要因となるであろう。
そもそも、世界最大の債務国が、国際金融システムを主導していること自体が、ほとんど「絶対矛盾」である。どこの国でも、金融システムは、基本的に債権者のロジックに沿って作られているはずである。しかし、あろうことか、国際金融システムについては、債務者のロジックに沿って運営されている。これが、そもそも混乱の源である。債務者のロジックに沿った金融システムは、当然のことながら、モラル・ハザードと不公正の温床になりやすい。国際金融システム改革を、米国とともに、もしくは米国に協力して進めようと考えるとしたら、それはとんでもないピント外れというものである。
世界最大の債権国であるわが国は、欧州大陸諸国、アジアおよび中東諸国と連携して、国際金融システムの大改革を主導すべきである。同時に、単純に、米英流の市場万能主義を輸入しようとしてきた日本の学者も、厳しい批判の対象としなければならない。またそれらの学者を重用してきた歴代政権と官庁にも、大いに反省してもらわなければならない。いずれにせよ、今回の危機もまた、アジア統合の推進がわが国にとって国益になることを示す、極めて重要なイベントと位置づけるべきである。
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