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2008-05-15 00:00
胡錦涛訪日と「東アジア共同体」
石垣泰司
東海大学法科大学院非常勤教授
今般の胡錦涛中国国家主席の訪日は、日中両国間の「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する共同声明をはじめ、気候温暖化問題等についての協調を含む70項目に及ぶ具体的協力に関する共同プレス発表が行われるなど、かなりの成果があったと評価して良いだろう。そのような中で、東アジア共同体に関する両国の協力の問題が多少なりとも取り上げられたのかどうか、取り上げられた場合にはどのようなかたちで取り上げられたのか、について興味があった。
まず、発表された「日中首脳会談の概要」によれば、2国間問題以外で両国が協力を申し合わせた分野として、気候変動・省エネ・環境、北朝鮮の次に、「国際貢献」があげられ、その第1番目に「東アジア地域協力」として「両首脳は、アジアを豊かで安定し開かれたものとするために、日中の果たすべき責任と役割は大きく、EAS、ASEAN+3やAPEC等の枠組みを積極的に活用しつつ、協力して地域共通の課題に取り組んでいくことで一致」したとされる。しかも、この東アジア地域協力問題は、東シナ海ガス田や国連改革等少人数会合で取り上げられた機微な問題と異なり、首脳会談全体会合で議論された由である。EAS、ASEAN+3を中心とする東アジア共同体に向けての地域的取り組みへの、日中両国の協力の明確なコミットメント表明したものと解して良いであろう。
次に、「共同声明」においては「今や日中両国が、アジア太平洋地域及び世界の平和、安定、発展に対し大きな影響力を有し、厳粛な責任を負っているとの認識で一致した」とした上で、「双方が対話と協力の枠組みを構築しつつ、協力していく」ことを決意した「五つの柱」の1つとして、「アジア太平洋への貢献」をあげ、「双方は、この地域の諸問題において、緊密な意思疎通を維持し、協調と協力を強化していくことで一致するとともに、協力を重点的に展開することを決定した」として、「開放性、透明性、包含性の三つの原則に基づき東アジアの地域協力を推進し、アジアの平和、繁栄、安定、開放の実現を共に推進する」と述べている。また、「共同プレス発表」においても、「双方は、アジア経済の持続的かつ安定した成長を実現するために、チェンマイ・イニシアチブのマルチ化やアジア債券市場育成イニシアチブ等、地域財政金融協力に取り組むことが非常に重要であると認識し、この協力を共に推進する」(第61項)としている。
さらに、東アジア共同体構築に向けては普遍的価値の共有が重要であるとされるが、「双方は、平等と相互尊重の基礎の上に、人権問題について対話を行い、国際人権分野における対話と協力を進めることで一致した」(第69項)旨明記されたことは、特筆に値する。 また、共同声明の中で、日本側が「中国の改革開放以来の発展」を積極的に評価し、中国側も「日本の戦後60年余の平和国家としての歩み」を積極的に評価したことは、両国が相互にそれぞれの今日までの国家の歩みに積極的評価を与えあったものであり、東アジア共同体に向けての今後の協力に向けての基盤整備に資するものといえるであろう。他方、今回発表された文書の中に、「東アジア共同体」の字句そのものはどこにも見あたらないのは、関係国の取り組みの現況を反映したものであり、とくに失望することもないであろう。
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