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2008-05-11 00:00
「勃興するアジア」の「域内部外者」日本の役割
武石礼司
東京国際大学教授
最近、欧州での政策決定に影響力を持つ人たちの間で盛んに議論されるようになってきたテーマに、「勃興するアジア(Rising Asia)にいかに対応するか」がある。アジアの経済発展と、その経済力をベースに生じてくる世界への発信力・発言力の向上に、欧米諸国がいかに対抗していくか、自らのポジションをどのようにして維持するか、が議論されている。欧米諸国にとっては、経済発展を続け、必然的に地位が高まるアジア諸国に対して、個別の国ごとに二国間の関係を強化していくという手法が有効となる。また、EUという地域共同体の「城」を維持しつつ、アジアにおける地域共同体形成への動きには、開かれた地域主義(Open Regionalism)の理念を掲げ、WTO交渉を始めとした様々な手法を駆使して、牽制していくことも、欧米諸国の世界での発言力を維持するために有効となる。
一方、アジア諸国にとって「勃興するアジア」は自分達の日々の問題である。しかも、自らの域内パワー・バランスが大きく変化することを意味するだけに、欧米諸国の議論に比して、さらに重大で、直接的な問題となっている。例えば、中国国内では、年間5万件とも8万件とも言われる、武装警官が出動せざるを得ない膨大な数の紛争が発生している。格差の拡大による国内の不満は、漢族内部においても飛躍的に高まっていて、「限界に近い(ジニ係数がほぼ0.5)」との言い方もなされる。また、中国国内の少数民族の問題は、今回のチベットの出来事を始めとして、ウイグル、モンゴル、朝鮮族等々、多様な課題を生じさせている。
さらに、中国とインドという大国経済の急速な拡大が、この2カ国を取り囲むモンゴル、カザフスタン、パキスタン、ネパール、ミャンマー、ラオス、カンボジア、ベトナム等々の諸国に、社会状況を一変させるほどの影響を与えていることも、忘れてはならない。日本で「発展する中国」をライバル視し、経済脅威論が述べられるのとでは、比較にならない、経済・社会・文化そのものに対する直接的な影響を、上記の諸国とその国民は受けているのである。こうした急変する社会状況の中で、これら近隣諸国の国民が受けるショックを少しでも和らげるためには、そのような影響緩和の役目を果たす「アジア域内の部外者」(第三者、例えば日本)の存在が、極めて重要となる。
筆者も、勤務する大学で、中国の少数民族出身の留学生から、「日本に対する期待」を聞かされているが、域内諸国に、自由な発言が出来る人々を広く送り出せるアジアの国は、それほど多くない。また、筆者は、中国周辺諸国を訪問した際に、「1人でも2人でもいいから日本人等の部外者がいてくれるだけで助かる」との話を聞いたことがある。現在重要なのは、アジア域内のパワー・バランスの急変に対応し、可能な限り多種多様なレベル(中央・地方政府、ビジネス、マスコミ、市民・NGO等)で、重層的に「域内の部外者」がアジア各国に滞在し、各国内で何が生じており、何が問題であるのかを情報発信して、「自分ならこう考える」と、意見を経験に即して述べていくことであろう。問題を明らかにし、議論の掘り起こしを進めることで、「勃興するアジア」という自分達の問題への対処に、初めて可能となることは間違いない。
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