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2008-04-05 00:00
(連載)零淑華さんへのお答え(2)
滝田賢治
中央大学教授
時として中国の学者は、封建制からの解放という理由以外に、チベットは「元々」「中国」の領土であったと主張し、チベット併合を正当化しようとします。ここで問題が2つ生じます。第1に「元々」「中国」の領土であったという場合の「中国」とは何をさしているのでしょうか。もちろん現在の中国ではありません。どの時代のどの中国を指すのでしょうか。第2に「元々」というときの「元々」とはいつの時代をいうのでしょうか。2000年前でしょうか。何故100年前ではないのでしょうか。
ここでやっと最初の2つの質問に回答できます。第1の質問への回答です。零さんは、中国はチベットに「高度な自治権」を与えているといいますが、その具体的な根拠・指標は何ですか。「自治」であるならば、あくまでも中国共産党が支配する中国の憲法の範囲内で、チベット人が文字通り自分達の物質的・精神的生活を安定化させるための政策を遂行できるはずです。物質的に豊かになっても自分達のアイデンティティが失われては「高度な自治」は証明されません。宗教・習俗を含むチベット人の伝統・文化が彼らのアイデンティティを保証するのです。
このアイデンティティを喪失させるような政策を採り続ければ「窮鼠、猫を食む」不幸な結果になりかねません。古典的国際政治観をもっている中国指導部が、一方で国家主権・内政不干渉原則を堅持し、他方で国際協調主義によって21世紀の国際社会で影響力と尊敬を確保したいならば、真の意味での「高度な自治権」を保証すべきです。これが保証された時、真の意味での「民族融和」が実現するのです。零さんが逆の立場に立ってみるとよく理解できるはずです。
急速な漢民族化が暴動の理由の一つであるならば「東アジア共同体」構築は不可能であるのではないかという第2の質問への回答です。そのまま受け取れば、東アジア地域で急速な漢民族化が進むことを前提とし、その場合には東アジア共同体構築は不可能であるという意見にもとれます。もちろんそういう意味ではないでしょう。東アジアには色々な国民・民族がいるので、中国内のチベット人と中国人の対立のようなものがこの地域で頻発して、共同体構築どころではないというのが趣旨でしょう。中国内において真の意味での「高度な自治権」が保証されるのと同様に、東アジア国際社会で各国が国家主権を前提としながらも国際協調主義を採用して、この地域の問題解決に当たれば、徐々に共同体は形成されていくでしょう。(おわり)
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