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2008-04-04 00:00
(連載)零淑華さんへのお答え(1)
滝田賢治
中央大学教授
小生が本欄に寄せた政策提言(3月26日付け投稿「『民族問題』と共同体構築」526号)に対し中国からの留学生と思われる零淑華さんより質問(3月28日付け投稿「滝田賢治先生への質問」)を頂いたので、回答したい。質問の趣旨は、第1に、既に中国はチベットに対し「高度な自治権」を与えているにもかかわらず民族問題の発生を避けられなかったのはなぜか、第2に、チベットの『暴動』の理由の一つが急速な漢民族化であるとするなら、それはある意味で「東アジア共同体」構築が極めて困難か、不可能であることを暗示しているのではないか、の2点であると理解します。この2つの質問に回答する前に、小生の(1)現代国際政治に対する基本的認識と、(2)「チベット問題」に対する素朴な疑問、について述べます。
(1)国際政治学のテキストの第1章のような表現ですが、現代国際政治が主権国家を基本的単位とし、内政不干渉の原則によって展開してきたことは、認めざるを得ません。しかし、第1次・第2次世界大戦を経験することによって、「主権国家のクラブ」ではあるかもしれませんが、国際連盟・国際連合をはじめとして多くの国際機関が成立し、国際問題さらには地球的問題群の解決に貢献してきました。その結果、国際機関に参加することによる利益を享受する対価として、主権の侵害とはいわないまでも、ある程度の制約を受けるようになった、ことも事実です。冷戦終結をも要因として加速してきたグローバリゼーションの進展によって、深刻化してきた地球環境、感染症、テロなどの地球的問題群を解決していくには、「古典的」な国家主権を全面的に主張するわけには行かなくなっている、現実を認め、国際協調主義を重視せざるを得ません。それは、ユニラテラリズム(一方主義)を押し通してきたアメリカにも、かつて帝国主義列強によって苦しめられた中国にも、当てはまることです。
(2)この国際政治観を前提に「チベット問題」に対する疑問を述べます。中国の歴史教科書でも、中国からの留学生の認識でも、新中国はチベットの人々を(ラマ僧支配の)封建制から解放するためにチベットを「解放した」ことになっています。もしこの解釈が正しいとするなら、どの国家も、力さえ伴えば、自国の価値観・論理によって周辺国を含め他国・地域を「解放」することが出来ることになります。かつてヨーロッパ列強が「未開の地」を文明化し、キリスト教化するために、広大な地域を植民地化したように。そして今またアメリカが、イラクを「民主化」するためにイラク戦争を行っているように。自国の価値観や論理を理由に、他の民族、明らかに言語、宗教、習俗が異なる他国、を支配することが正当化されるなら、日本の朝鮮半島支配、満州国建国も正当化されるという危険性を孕みます。(つづく)
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