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2008-04-03 00:00
(連載)東アジア食品生産共同体に「食の安全」を問う視点(1)
進藤榮一
筑波大学大学院名誉教授
フード・マイレージという言葉をご存知だろうか。私たちが食卓で口にする食物が、どれだけ遠くから運ばれてきたかを示す物差しだ。それも、単に食品の輸送距離だけでない。その距離に、運ばれた食品の重さを掛け合わせたものだ。だから遠方から大量の食品を運べば運ぶほど、輸送にかかる二酸化炭素(CO2)の排出量を増やし、地球温暖化を進め、環境悪化に拍車をかけることになる。しかも長距離輸送の過程で生ずる品質の劣化や、その劣化を防ぐために使う化学物質が、私たちの食の安全を脅かしかねない。2001年水準で日本のフード・マイレージは、9千億トン・キロメートル。韓国の3・4倍、米国の3・7倍に相当し、世界最大を記録する。
中国の冷凍ギョーザ中毒事件の報に接して、このフード・マイレージを思い出した。私たちはギョーザを、遠い中国の工場で作り、冷凍食品にして空輸し、スーパーに並べ、消費者はそれを買い、食卓に並べる。件のギョーザを作った天洋工場は、北京から300キロメートル余り離れた河北省石家荘市にあるが、ギョーザの原料となる野菜は、はるか内陸、さらに2500キロも入る新疆ウイグル自治区などの農家から入荷する。貧しい内陸農村部だから、衛生状態はけっしてよくない。日本で禁止されている農薬も使われている。そして大量生産された冷凍ギョーザが、北京経由で空路運ばれ、私たちの食卓に並ぶ。こうして私たちの国は、マクドナルド・ハンバーガーで名だたるファーストフードの国アメリカをしのぐフード・マイレージ大国へと成り上がっている。その変貌が、食料自給率で40%を切り、先進国中最低となった現実と重なる。
確かにグローバル化は、食品生産ネットワークを地域一帯につくり、東アジアに「食品生産共同体」の形成を促している。たとえば紀文のカマボコは、オホーツク海のスケソウを原料に製品化されるだけでなく、タイ近海の金メダイなどを原料にバンコックですり身に下ろされ、現地や、日本国内の工場で製品化され、グローバルな市場へと向かう。そのグローバル化の流れを、私たちはもはや逆流させることはできない。であるなら、いま私たちに問われているのは、情報革命下でグローバル化の生むリスクの発生を未然に防止し、食の安全を最大化することだ。その点で1995年、WTO体制成立に伴って、日本が米国の強い外圧下に食品衛生法の規制緩和を進めたことが、今日頻発する輸入食品事件の背景にあったことは、十分に記憶してよい。(つづく)
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