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2008-02-26 00:00
東アジア共同体建設に向けた知的ネットワーク構築
滝田賢治
中央大学教授
3度にわたる独仏間の戦争への深刻な反省とヨーロッパが米ソ冷戦の「戦場」となりつつあることへの恐怖が、ジャン・モネをはじめとする政治指導者のヨーロッパ共同体建設に向けた情熱の動機であったことは、今更指摘するまでもない。そして事実、政治指導者の強固なリーダーシップによって紆余曲折を経ながらも、共同体が建設されてきたのである。冷戦終結後広く主張されるようになってきた東アジア共同体建設にも、この地域の政治指導者の強力なリーダーシップが不可欠であることは言うまでもないが、エピスティミック・コミュニティーを含む市民社会の協働も益々不可欠な要素となってきている。冷戦終結をも一大要因とする現代グローバリゼーションが、東アジアに――この地域に限ったことではないが――突きつけている様々なイシューをマルチな枠組みで解決していく場合、冷戦終結によって軍事専用から民間に開放されたインターネットによる東アジア市民社会の連携が可能になってきている。市民社会の協働には色々なプロジェクトが考えられるが、ここでは東アジアにおける知的ネットワークの構築を提案したい。より具体的には2つのケースが考えられる。
第1に、現在、研究中心の国連大学を教育をも行う機関に改革・再編し、かつ東アジアの数箇所に設置し、現在の目的であるグローバル・イシュー研究とともに東アジアの諸問題をも研究・教育する場にすることである。ここでは学生・院生ばかりか各国の若手官僚・軍人・ジャーナリストを対象に、グローバル・イシューと関連付けながら東アジアの諸問題を議論させつつ、様々なシミュレーションとロール・プレイの手法を軸とする相互理解のプログラムを展開すべきである。この東アジアの諸問題の中には、環境、人口、感染症、自然災害、海賊行為、麻薬・人身売買などへの対応とともに、歴史教科書、文化交流(ポップ・カルチャーも重視する)、ツーリズム(エコ・歴史に関するものも含む)、東アジア版MDGsの設定(軍事費の透明度、人権状況、女性のエンパワーメント、初等・中等教育などを含む)なども対象とすべきである。
第2に、国連大学の改編・再編が不可能な場合には、現在ある東アジアの大学の中でこの問題に関心のある大学が「東アジア学部・大学院」/「地球社会学部・大学院」を新設するか、現在ある学部・大学院を改編し、ネットワークを形成するべきである。この場合、このネットワークに参加している大学は科目名や単位、さらにはシミュレーション・ロールプレイなどの教育手法ばかりか、学位(BA、MA、Ph.D)も統一すべきであろう。単位の互換も教員の相互派遣も認めることが前提となるし、遠隔授業も可能な施設・設備も不可欠である。当然、使用言語は英語になる。大学や学部の新設にはコストがかかるという批判も出ようが、これは東アジアの安全保障のためであり、中長期的にみれば軍事費の削減につながることになる。この大学に学ぶ学生・院生は必ずや「想像の共同体」の不可欠な構成員となるであろう。
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