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2008-01-24 00:00
台南の歴史に何を学ぶべきか
大江志伸
読売新聞論説委員
立法委員選挙を1か月後に控えた2007年12月、台湾南部の地方都市を巡る機会を得た。これまで訪問のチャンスを逃し続けていた台南市滞在は、とりわけ印象深かった。台南は歴史の街である。移住漢民族の故地やオランダの進出と、これを駆逐した明の遺臣・鄭成功ゆかりの旧跡などなど・・。市内を巡ると、歴史の断面を随所で目にすることが出来る。手厚く保存されている日本統治時代の建造物群も見所である。台南市発行の日本語ガイドブックは写真、文とも見事な出来だった。この手の案内書は現地在住の邦人の校閲を経たとしても、とかく奇異な日本語表現が残りがちだ。しかし、台南市のガイドブックはパーフェクトな内容だった。台湾開発に心血を注いだ当時の日本人への深い理解が、根底にあることを感じ取れた。
3月22日の台湾総統選で「日本」が焦点の一つになっている。野党・国民党の馬英九候補、与党・民進党の謝長廷候補が昨年末、相次ぎ来日した。米国に次ぎ重要な日本と良好な関係を築く能力を示すことが選挙に有利に働く、との思惑があるからだ。「反日的」と評されてきた馬氏は、「知日派」への変身ぶりをアピールした。京都大学留学の経歴を持つ謝氏は「親日派」ぶりを誇示した。台湾での与野党有力者との意見交換では、「訪日に対する日本側の評価はどうか」との質問を何度も受けた。福田首相の年の瀬の訪中では、「台湾名義での国連加盟申請に関する住民投票」に関する発言は台湾でも波紋を広げた。
台湾総統選は、台湾出身のいわゆる本省人主体の民進党と、共産党との内戦に敗れ蒋介石政権とともに移ってきた外省人を核とする国民党の激突の構図が続いてきた。今回も基本は同じだ。総統選の前哨戦となった立法委員選挙は、野党・国民党の圧勝に終わった。国民党の馬候補は、8年ぶりの政権奪回に王手をかけたといえる。ただ、台南に刻まれた「移住者の島」という歴史の尺度で台湾政治を見ると、「新旧住民の融合による過去の克服」と「中国との関係のあり方という未来の課題」の間で、民主政治の深化を探る姿が浮かんでくる。
実際、両陣営の主張は、台湾化、対中協調といった論点でさえ、「融合」過程にあるといえるほど重なる部分が多い。総統選の過程で「日本」がスポットライトを浴びたのも、日本統治時代を含め、台湾の過去をあるがままに評価しようとする住民融合の流れが根底にあるからだ。総統選でどちらが勝とうとも、この「融合」の流れは加速し、「統一か独立か」といった二元論を打破する動きが出てくる可能性がある。「親日か反日か」の二元論で論じがちな日本人も、複眼的な視点で日台関係を見る必要が高まっている。
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