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2008-01-08 00:00
アジア標準の環境アセスメントの必要性
武石礼司
東京国際大学教授
以前からたいへん不便に感じてきたのが、アジア開発銀行(ADB)が毎年発表しているアジア各国の基本統計(Key Indicators)に日本が含まれていない点である。ADBの担当部署に問い合わせたところ、アジアの発展途上国のみを取り上げている、とのことであった。援助ドナー側と受取り手の側の峻別が、従来は行われてきたわけである。確かにADBの援助ドナー国は、日本と欧米諸国であり、アジアの途上国が受け取り側という構図が続いてきた。ただし、この構図は、中国が急速な発展を遂げ、大規模な国土改造を強力に推し進めるとともに、援助国となったことで変化してきている。
例えば、国際河川のメコン川の最上流に位置する中国は、既にいくつものダムを建設し、さらに計画中である。よく知られるように揚子江には100万人以上の人を立ち退かせて三峡ダムを建設しており、メコン川最上流でのダム開発は、中国から見れば中小規模の開発プロジェクトとなる。その中国は、メコン川の下流部の隣国ラオスに自国資金の提供を提案し、ダム、道路、橋の建設を行う計画を提示してきた。有力なNGOであるメコン・ウォッチの松本悟氏が指摘しているように(松本悟メコン・ウォッチ代表「メコン川 河川開発と住民-NGOの視点から」http://old2.josuikai.net/josuikai/21f/63/mt/
main.html参照)、ADBあるいは世界銀行であれば必須となる程度の環境アセスメントも抜きで、中国が建設を進めることを避ける意味もあって、ラオスでのインフラ関連プロジェクトに、これら国際金融機関が出資して実施する例が、出現している。
アジアでの共同体の成立を目指す以上、アジア標準での環境アセスメントをアジア各国が実施するよう徹底していくべきなのは、当然と言えよう。メコン川のように平坦な土地を流れる川にダムを建設することは、広い面積の森林を水没させることを意味しており、ラオスのダム1ヵ所であれば、中国の事例と比べると圧倒的に少ないものの、数千人単位の現地住民の移転を要請することになる。どのような地域においても、環境アセスメントの徹底と、社会的なインパクトの評価、その軽減を図るべきなのは当然である。こう考えてくると、大規模な国土改造が続く中国国内において徹底した環境アセスメントの実施により、地域住民の生活レベルの維持が図られる必要性があることも明白である。当面の経済成長率を若干引き下げる結果となるとしても、環境アセスメントの実施により、早期の対策が取られることは、持続可能な発展を確保するためには有益である。
アジア標準での環境アセスメントの実施というソフト面の援助に、ADBが大きな役割を果たすことも期待したい。アジア地域での環境アセスメント業務の標準化とその徹底にADBが取り組むことで、ADBメンバー国を、ドナー国側と受け手国側に峻別する意味は薄れる。こうした方向性が打ち出される中、アジア地域の一員として、日本が基本統計(Key Indicators)に記載されることも期待したい。日本のエネルギー効率の高さを簡易に算出し、横並びで比較できる、絶好の機会の提供にもなるからである。
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