ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
本文を修正後、投稿パスワードを入力し、「確認画面を表示する」ボタンをクリックして下さい。
2007-12-07 00:00
豪州有権者が選択した「変化への備え」
大江志伸
読売新聞論説委員
有権者が選択したのは、長期政権の「実績」よりも、政権交代による「変化」だった。11下旬に行われたオーストラリア総選挙で、弱冠50歳のケビン・ラッド党首率いる野党労働党が勝利し、11年半ぶりに政権を奪還した。首相在任期間は歴代2位、5期目を目指したジョン・ハワード首相の与党保守連合は、首相自身が落選する惨敗ぶりだった。ラッド首相はイラク駐留豪軍の段階的な撤退と、ハワード政権が拒否してきた地球温暖化防止のための京都議定書批准を公約に掲げて戦った。今回の政権交代は、「副保安官」を自称し対米追従が目立ったハワード路線の転換を意味する、というのが豪州内外のマスコミや評論家の見立てだ。
ラッド首相は新政権が発足した今月3日、初仕事として京都議定書の批准文書に署名した。オーストラリアでは批准に議会承認は不要で、文書の国連到着から90日後に批准手続きは終わる。2008年以降の5年間で温室効果ガスの排出量を1990年比で8%増に抑える義務を負うことになる。これで、米国の孤立はいっそう鮮明となった。対中国外交も注目点だ。元外交官で中国通というラッド首相の経歴から、新政権のアジア外交の中心は日本から中国に移る、との観測が出ている。胡錦濤中国国家主席がシドニーを訪問した9月には、中国語で会談に臨んだ。長男は上海の名門、復旦大学に留学し、長女は華人と結婚している。首相自身が対中外交のキーパーソンになるのは確実だ。
豊富な資源や安保面での国際貢献を通じ、アジア・太平洋地域で存在感を強める豪州の「変化」が、地域全体にどのような影響を及ぼすのか。日本でもそうした視点から豪州情勢に関心が集まっているが、今回の「変化」を過大に評価するのは禁物である。ハワード政権下で豪州経済は、好調を維持してきた。選挙期間中、ラッド首相は、財政黒字の維持や減税策など、「ハワード路線」と同じ経済政策を打ち出すことで、国民に安心感を与えた。この結果、財界など保守票の取り込みにも成功した。
外交面では、「米国との同盟維持」という根幹は揺るがないことを再三強調している。ラッド首相は元来、親米派として知られている。イラクからの軍撤退についても米政府と緊密に連絡しながら進める方針だ。豪州の貿易相手国は今年、中国が日本を抜き一位となった。豪州と中国が経済を中心に関係を深めるのは自然なことだ。劇的な政策転換に見える京都議定書批准にしても、2年連続で豪州を襲った干ばつに対する現実的な対応という側面がある。どれも根っこでは「劇的変化」につながるものではない。
今回の豪州の政権交代は、「変化への備え」を若きリーダーに託したという点に本質があるのではなかろうか。ブッシュ政権の退場が刻々と近づく中、米国を軸とする世界情勢はどう変動していくのか。年明けから本番となる米大統領選をにらみながら、各国政府は対応に追われることになる。政権交代によりフリーハンドを広げ、その備えをいち早く整えたのが豪州なのである。
投稿パスワード
本人確認のため投稿時のパスワードを入力して下さい。
パスワードをお忘れの方は
こちら
からお問い合わせください
確認画面を表示する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会