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2007-12-03 00:00
今後10年の東アジア通貨・金融協力の行方
村瀬哲司
京都大学教授
去る11月20日シンガポールでのASEAN+3首脳会議に際して第2回共同声明が発表された。ASEAN+3首脳会議が10回目の節目を迎えるに当り、共同声明が出されることは2005年のクアラルンプール首脳会議で予告されていたものである。その中で通貨・金融協力に関する部分は、「チェンマイ・イニシャティブ(CMI)のマルチ化とアジア債券市場イニシャティブ(ABMI)の強化を・・・推進することに合意した」という、取り組み中のプロジェクトを継続するという簡単なものである。
1999年11月マニラでのASEAN+3首脳会議で出された初めての共同声明は、アジア危機の記憶が鮮明ななかで、今後の東アジアにおける経済・金融面での協力の必要性を謳いあげた。すなわち、「東アジアにおける自助と支援メカニズムを強化しつつ・・・金融・通貨・財政面での共通の利益に係わる問題において政策対話、協調と協働を強化することに合意した」と。前回の共同声明は、それまで東アジアでは実体的になんらの経済・金融面での協力がなかったこと、それがアジア危機を招き、それに対して無力だったことへの反省から、ASEAN+3としての大きな方向性を指し示す基本文書であった。この大枠のもとで、その後通貨・金融面では、CMI、経済レビューと政策対話、ABMI、ASEAN+3研究グループなどが具体化されていった。
今回の第2回共同声明に先立って、筆者は通貨・金融の地域協力に関して何らかの新たな方向性が示されることを密かに期待していた。すなわち、これまで取り組まれてきた通貨危機の予防策と万一発生した際の対応策に加えて、域内通貨の為替相場安定を目指す協力への言及である。かつて東アジア・スタディ・グループ(EASG)は「より緊密に協調した地域為替相場メカニズムの追求」を提唱しており、この点につき言及があることを期待したのである。共同声明を準備する課程でどのような議論があったかはまったく知らない。しかし、EASGに盛り込まれているこの項目について、何らかの議論があっただろうことは推測できる。また、域内の為替相場安定は、各国の利害が鋭く対立するテーマであることも容易に理解できる。
だが、実際に共同声明に書き込まれた文言は、現在継続中のCMIとABMIの通貨危機対策の強化だけであり、これは今後10年間の大方針としては物足りないとの印象をぬぐえない。ASEAN+3プロセスでは、通貨・金融面でも具体的なプロジェクトが進行しているだけに、かえって未来志向的な共同声明の取りまとめには苦労したのかも知れない。共同声明には作業計画(Work Plan)が添付されているが、そこでも域内での通貨安定に直接関連する項目はない。今後、自由貿易地域の実現とともに通貨安定へのニーズは必ずや高まるにせよ、東アジアでの地域為替相場メカニズムへの道は長くて険しいことだけは、改めて認識する必要がありそうだ。
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