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2007-12-01 00:00
「価値」外交と日中関係―福田総理の訪中をひかえて-
舛島貞
大学准教授
戦後日本外交の基本は、日米関係(日米安保)、アジア重視、国連外交の三者に置かれてきた。福田総理が日米同盟とアジア外交の連関を唱えたことも、こうした日本外交の基礎をふまえ、三者を分立させずに関連付けようとするものだと考えられる。これは当然行なわれるべきことのようでありながら、実はここのところ三者の間の整合性が問題となっていた。それだけに、このような方針の策定は意義深い。安倍前総理は、こうした三者とともに「価値」外交という問題提起を行なった。麻生前外相も「自由と繁栄」というキーワードを掲げた。このような「価値」「民主」「自由」といったキーワードが中国を意識したものであったとすれば、その外交政策は決して孤立した外交ではなかった。2007年9月のAPECビジネス・サミットでブッシュ大統領は「アジアの民主化」を重視する発言をし、ドイツのメルケル首相も2007年8月の訪中時に「言論の自由」や「人権」の重視を明確にしている。オリンピックを控えて中国を牽制しようとする風潮があるのだと考えられる。
そうした中で、オーストラリアの下院選挙で、野党労働党が大勝し、知中派として知られるケビン・ラッド(Kevin Rudd)党首が首相が選出された。胡錦濤と中国語で会話ができるほどという。日本で福田政権が成立し、オーストラリアでも中国に有利な政権の誕生が決まった結果であろうか、ここにきて中国は「価値」外交に対する攻勢を強めている。中国の安倍政権に対する評価は、歴史認識問題などについて一定の方向付けをおこなったことを高く評価しつつも、もう一方でその「価値」外交が中国を刺激するものだとして否定的な評価をしていた。「自由と民主」は、ともに中国には厳しい課題であるだけに、中国側も敏感に反応しているのであろう。このところ、筆者が参加する国際会議などでも、安倍前総理の唱えた政策への批判を何度か耳にした。
しかし、台湾の陳水扁政権に対して、一定の支持を与えつつも、過度の独立志向を抑制するよう求めることがあるように、中国に対してもある程度の牽制があってしかるべきであろう。中国は、発展途上国でありながら経済大国であり、経済発展しても所謂西洋型民主主義を伴わない「特殊な」な性格を有し、それだけに予測可能性の低い国家である。それだけに、牽制が必要なのではなかろうか。福田総理の訪中が間近に迫っているが、この「価値」外交を放棄するということにはなるまい。ただ、あまり強調しすぎることもないだろう。安倍政権の「価値」外交的な路線を一定程度継承していることを示せれば、十分な抑制力になるのではないだろうか。
他方、東シナ海問題で解決の糸口が見つからない現状で、福田総理が12月中に訪中できるかどうか、ということもまた問題である。中国側は、討議すべき諸問題の一つにガス田問題を位置づけようとし、日本側は一定程度の成果を得ようとしているようである。また、2008年にODAが終了することから、新たな相互協力枠組みをつくろうとする動きもある。アセアン+3に基づく諸課題もあるが、もしかしたらアセアンが絡まないかたちでの北東アジア三国首脳会議という場の設定がなされるのかもしれない。いずれにしても、何かしらの成果がないと、福田総理も、なかなか訪中しにくいところであろう。いずれにしても、日米関係とアジア外交をリンクさせていく上での試金石として、「戦略的互恵関係」と位置づけられた日中関係をいかに進展させるかが問われている。
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