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2007-11-22 00:00
「汚点」になりかねない日本のミャンマー外交
大江志伸
読売新聞論説委員
アジア重視を掲げる福田政権のデビュー戦、訪米に続く東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議出席のためのシンガポール訪問が終了した。靖国参拝を繰り返した小泉政権、「主張する外交」を掲げた安倍政権下では、ASEAN諸国を巡る中国との激しい主導権争いが多々あったのとは対照的に、福田首相は終始ソフトムードで会議に臨んだ。中国の温家宝首相は福田首相との会談で「中国人民はあなたをよく知っている。あなたのお父さんは30年前、首相として中日平和条約に署名したからだ」と語りかけた。日本に厳しい姿勢を貫く韓国の盧武鉉大統領も「福田首相になって韓国国民の期待は大きい」と伝えた。アジア外交の重要なパートナーである中国、韓国、それにASEAN諸国の、福田外交に対する好感度は極め高い。今後、福田政権の貴重な資産となることだろう。
「誠実な低姿勢ぶり」が好感を集めた要因らしいが、「低姿勢」で処すべきではなかったものもある。軍事政権が民主化デモを武力で弾圧したミャンマー問題である。福田首相はシンガポール滞在中、ミャンマーのテイン・セイン首相と会談し、「明確に民主化に向かっている変化を示して欲しい」「(民主化指導者の)アウン・サン・スー・チーさんとの対話を実質的なものにすべきだ」「民主化には反対派を含むすべての国民の参加が必要だ」と力説した。字面だけ読めば、福田首相が相当の覚悟を持って民主化を迫った光景が浮かんでくる。だが、テイン・セイン首相は「国際社会の経済制裁で国民が苦しんでいる」と応じた。至近距離から銃撃され死亡した長井健司さんについても「偶発的な出来事だった」と従来の立場を変えなかった。福田首相の説得、要請は軽く聞き流し、経済制裁で苦しむのは庶民と居直ったようなものだ。
さらにテイン・セイン首相は軍事政権のトップ、タン・シュエ国家平和発展評議会議長の「福田首相のミャンマー訪問を招請する」とのメッセージを伝えたという。庶民の窮乏を見かねて軍政糾弾に立ち上がった僧侶らを銃撃で蹴散らし、国際的な非難の渦中にある国をだれが喜んで訪問するだろうか。それを承知で、自国訪問を要請する---これは、一国に対する侮辱ではないのか。会談の詳細は不明だが、福田首相がミャンマーにまで「低姿勢」で対応したとしたら大いに問題だ。
言うまでもなく日本とミャンマーはビルマ独立前から特殊な絆で結ばれてきた。日本の一部政治家や旧軍出身の財界人など古い世代には、軍政に理解を示す人々がなお存在する。ミャンマー情勢閉塞の責任の一端は、反軍政の頑なな態度を変えないスー・チーさんにあるとの声さえある。こうした日本特有の軍政支持勢力の影響もあって、日本のミャンマー政策は、制裁に軸足を置く欧米諸国と一線を画し、「独自外交」を堅持してきた。しかし、軍政は権力維持それ自体が目的の「暴力装置集団」と化しつつあるのが実態だ。スー・チーさんとの対話再会は国際批判をかわすための方便に過ぎないことが、遠からず明らかになるだろう。日本は対ミャンマー政策の転換を真剣に検討すべき時だ。
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