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2007-11-12 00:00
連載投稿(1)サルコジ親米外交への懸念
山下英次
大阪市立大学大学院教授
フランスのサルコジ大統領のアメリカ好きは、かねてより良く知られるところであったが、国家の政策としても親米路線を鮮明にしつつあるようだ。フランスは、ド・ゴール大統領の下で、米国が中心的な役割を果たすNATO(北大西洋条約機構)の統合軍事機構から1966年以来脱退し、政治機構のみの参加となっていた。11月7日、米国上下両院の合同会議で行った演説で、サルコジ大統領は、NATOへの完全復帰方針を示した。
このNATOへの完全復帰問題については、国際社会も概ね歓迎するものと思われるが、国際的に甚だ評判のよろしくないブッシュ政権の政策を、この時点で裏書きするような米国への過剰なラブ・コールについては、大いなる疑問と懸念を抱かざるを得ない。2003年、イラク問題を巡る国連の安全保障理事会で、フランスのド・ヴィルパン首相(当時)が米国のイラク攻撃に反対する極めて説得力のある演説を行い、終了後同首相は、同理事会としては異例の拍手を持って迎えられた。私も、その時、NHKのBS放送を通じてたまたまリアル・タイムで視聴していたので、その時の光景は鮮明に記憶している。同じ会議で、パウエル米国務長官(当時)は、イラクに大量破壊兵器保有疑惑があるとして、イラク攻撃の正当性を主張していたが、説得力はなかった。今日では、パウエル氏のあの場での主張は、事実に反するものであることが判明している。
あれから5年近くたったいま、フランスの主張の方が正しかったことは明々白々である。加えて、ブッシュ政権の政策がいまだに愚行の連鎖を続けていることも事実である。然るに、今この時点で、フランス政府がブッシュ政権の政策に褒美を与えるかのような姿勢を取るというのは、いったい何事であろうか? その意味で、サルコジ政権は、歴史の証明に反する行為をしている、と非難されても仕方ないのではないだろうか? サルコジ氏が、これまでのフランス外交とかなりかけ離れた政策を採っているのは、ユダヤ系ハンガリー人の移民の孫であり、典型的なフランス人とはかなり異なるバックグラウンドを持っていることと、無縁ではないであろう。また、米国のことのほかイスラエル贔屓の政策に対しても、親近感を抱くという面もあるのかもしれない。
国際社会が、米国の暴走を防ぐために結束しなければならない時に、これまで米国を牽制する上で常に重要な役割を演じてきたフランスが対米外交姿勢を一変させるとしたら、それは国際社会にとって大きな打撃である。また、世界はすでに、米国一極支配から多極化(polarisation)に向かって大きく動き出しているのであり、その意味からも、サルコジ外交は、反動的だと言わざるを得ない。(つづく)
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