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2007-10-29 00:00
人権決議にみる米国議会の問題点
山下英次
大阪市立大学大学院教授
米国連邦議会下院外交委員会は、今年6月26日、旧日本軍の「従軍慰安婦」問題で、公式な謝罪を求める決議を「39対2」の圧倒的で採択したのに続き、10月10日、第一次世界大戦当時のオスマン・トルコ帝国がアルメニア人を大虐殺(ジェノサイド)したと認定する決議案を「27対21」で採択した。米国議会が、立て続けにこのような行動をとるのには、きっと何か背景があるに違いないと考えていたが、そのなぞは案外簡単に解けた。10月12日、NHKのBS放送を通じて放映された米国の公共放送PBSのインタビュー番組に、トマス・ラントス(Thomas Lantos)下院外交委員長が、元駐トルコ米国大使とともに出演していたが、そこでラントス委員長自身が動機を「告白」していたからである。
ラントス委員長(カリフォルニア州選出の民主党下院議員、79歳)は、下院が人権問題で一連の決議をしたのは、アメリカの道徳政策の権威を取り戻すためであると発言をした。すなわち、ブッシュ政権の下において行われたアル・グレイブやグアンタナモ収容所における捕虜虐待問題などをはじめとする数々の事案で失われた米国の権威の国際的な失墜を、外国政府がかつて行ったとされる非人道的な行為、しかも米国とは直接かかわりのない行為を非難することによってカバーしようという魂胆である。米国下院の動機が以上のようなものであるとしたら、誠に浅ましいとしか言いようがない。PBSの番組に同席した元駐トルコ大使は、米下院によるアルメニア人の大虐殺の認定は、米国の外交政策にとって大きなマイナスであると決議を強く批判していたが、ラントス委員長は、「従軍慰安婦」問題のときも、日本政府から反発は少しあったが、すぐに収まったので、トルコからの反発もそのうち収まるであろうと発言していた。
日本政府と国民は、このような米国議会の動きに対して強い不快感を示しておくべきである。さもないと、日本は文句を言わないから構わないと、米国議会はますます増長しかねない。「従軍慰安婦」問題は、7月30日、下院本会議でも決議がなされたが、下院の議員総数435名のうち、この決議に出席した議員の数は僅か10名程度だったという。このような極めて限られた数の議員だけの出席にもかかわらず議決を有効とするとしたら、われわれは、米国下院において民主主義が健全に機能しているとは認めないと、はっきりしたメッセージを送るべきである。
「従軍慰安婦」問題は、良く知られているように、元々、マイケル・ホンダ議員(同じくカリフォルニア州選出の民主党議員、65歳)のイニシアティブによるものである。こうした極端な考えの人はごく一部ならどこにもいるであろう。それよりも、ホンダ議員のような一部の考えを、ある別の目的のために利用し、下院全体の決議にまで持って行こうと画策するラントス委員長のような存在こそ問題視しなければならない。日中・日韓関係を悪化させる要因は、このように欧米諸国からもたらされる場合も少なくない。こうした米議会の行為が、ひいてはアジア地域統合を遅らせる要因にもなるのである。
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