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2007-10-19 00:00
東アジア・シンクタンク・ネットワークの目的と役割を誤解すべきでない
石垣泰司
東海大学法科大学院非常勤教授
8月20-22日にシンガポールにおいて開催された「東アジア・シンクタンク・ネットワーク(NEAT)」の第5回年次総会について、さる9月21日開催された当評議会の第22回政策本会議で同総会に参加した日本代表団の皆さんからご報告があった。NEAT年次総会に今回日本から多数の方が出席したことは大変結構なことであり、とくに近年参加され、または今回初めて参加された方のご感想、ご所見には、新鮮で傾聴すべきものも少なくないが、他方その中の批判的コメントのうちには、NEATの基本的性格やこれまでの経緯等を考えると、やや的外れと思われる部分もあるやに見受けられた。かつてNEATに関わったことのある経験を踏まえ、気づきの点について述べさせてもらいたい。
まず、NEATは、その名が示すとおり東アジアのシンクタンクのネットワークであるが、組織論的には、ASEAN+3(APT)加盟各国政府より指定されたシンクタンクの集まりであり、各国政府(とくに年1回のAPT首脳会議)に意見を具申することを目的としている。NEAT年次総会に参加するのは、各国政府によって指名されたカントリー・コーディネーター(CC)とCCによって選定された各国のその他のシンクタンクおよび有識者である。従って、その基本的性格は、APT構成13カ国のCC関係者間の意思疎通、意見交換の場である。NEATの最高意思決定機関が、年次総会ではなく、CC会合とされているのも、NEATの設立を決めたASEAN+3政府の狙いが、NEATのセカンド・トラック活動を通じてAPT加盟国間における共通認識の範囲(コンセンサス)を拡大し、地域の連帯感を醸成することによって、長期的に地域統合の基盤整備を行おうとするものであるからである。年次総会における全参加者の個人ベースでのフリー・ディスカッションは、東アジア地域の抱える諸問題に関する最先端の学術的、専門的議論の場として重要な役割を果たしてきたし、これからも果たすことを期待されているが、しかし年次総会はそのような学術的議論だけをもっぱら主目的とした国際シンポジウムや研究大会とは性格を異にする。それら最先端の議論を踏まえつつも、最終的にはCC会合における各国コンセンサスの集約を経て、東アジアの現実政治に関与しようとするものであることに留意する必要がある。
そのようなNEAT年次総会の基本的性格を考えれば、その議論について「(学術的な)深みが足りない」といった批判をすることは、必ずしも当を得ていないことがわかる。今回参加者のご所見の中には、特に中国が主催した「金融協力」作業部会の報告についての批判が少なくなかった。その一つには「中国が提出した同作業部会報告書は、ASEAN+3の財務大臣会議等で論議されていることの繰り返しにすぎず、新味がなかった」というものがあったが、同報告書は別に中国が勝手に作成したものではなく、同作業部会での議論を取りまとめたものであり、しかも同作業部会には例えば我が国からは内海孚元財務官が日本を代表するメンバーとして出席しておられた。第20回CEAC政策本会議でご自身が詳細に報告しておられたように、この作業部会では内海氏も基調スピーチを行なって、議論に貢献され、呉健民座長の同作業部会運営振りついても好意的なコメントをされている。また、今次NEAT総会において同作業部会の報告書を読み上げた者が、エコノミストとして十分な経歴を有しない者であった点について厳しい指摘もあったが、当該作業部会の実際の会合には多数の中国側経済専門家を含む各国代表が参加して、報告書がとりまとめられたものであり、座長が指名する作業部会メンバーが座長に代わって報告書を読み上げたことを問題視するのは、枝葉末節にこだわりすぎているのではないだろうか。
日本が主催する「東アジア共同体構築の全体構造」作業部会が本年取り上げた非伝統的安全保障問題のテーマについても「全体構造の一部とは言い難く、東アジア共同体の構築に関わる理念、原則等を取り上げるべきである」といった批判が聞かれたところ、今回このテーマに初めて接し、これだけ孤立して取り上げれば、そのように感じられる面もあるのかもしれないが、「全体構造(Overall Architecture)」の問題は、同作業部会が立ち上げられた初年度会合および同年度において同様問題を取り上げたマレーシア主催の作業部会において既に突っ込んだ論議が行われており、次年度において引き続き同じ理念、原則等を議論しても同じ議論の繰り返しに終わるであろうとの見通しの下に、新しい切り口として当時東アジア地域全体の大きな問題として浮上しつつあった非伝統的安全保障問題を取り上げることについて、日本側初年度座長(田中明彦東大教授)と次年度座長(白石隆政策研究大学院大学副学長)の意見が一致した経緯がある。安全保障は地域統合問題の中核にありながら、伝統的安全保障となるといまだ虎の尾を踏む難しさがあり、そのなかでまず非伝統的安全保障を取り上げたことは決して無意味なことではなかったと思う。それはまさに「東アジア共同体構築の全体構造」に関わる問題であったのではないだろうか。
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