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2007-10-12 00:00
北東アジアの歴史問題をどう解決するか
滝田賢治
中央大学教授
3カ年間にわたる日中韓の有識者意識調査についての総括会議のため10月中旬、数日間ソウルに滞在する。現段階でこの調査の詳細を紹介するわけには行かないが、興味深い結果が浮かび上がっているので、それについて述べたい。
第1に、年度によって数値に若干の違いはあるが、回答者の多くはこの3国間の歴史認識の違いや、これに起因する憎悪(historical animosity)が地域紛争に発展する可能性を危惧していることである。とくに小泉政権期に顕著であったという事情を考慮しても、この問題が依然としてこの地域の有識者にとって深刻な問題と考えていることを改めて認識させられた。問題は、この歴史認識の対立が紛争に至るプロセスである。この対立を背景として、あるいは政府・マスメディアが利用して、高揚させられたナショナリズムと結びついた領土紛争を媒介とする可能性が一番高いであろう。領土問題はどの国においてもナショナリズムの「琴線」を容易に刺激するものだからである。国内政策の失敗、国内的不安定という対内的問題を対外的危機に転化して政権の維持に利用しようとする、ある意味では古典的な「ボナパルチズム」的政策であるが、この政策にメディアや国民が簡単に操作されてしまう可能性は21世紀に入った現在でも否定できない。
第2に、3年間の調査に通底している回答者の傾向は、他の2カ国について、自国よりも「歴史問題に責任がある」とか「問題解決に消極的である」という自国中心主義を認識していることである。このクールな認識は、調査対象が中国を含め研究者や何らかの専門家という、いわばアテンティヴ・パブリック(attentive public)以上の有識者であるという事情とも無関係ではない。しかしこの傾向を緩和する具体的方策は何ら提案されていない。会議における筆者の役割は、論争の的となるではあろうが自国中心主義的な歴史認識に少しでも共通の基盤を提供することであると認識している。
「歴史とは過去と現在の対話である(多分、過去と未来との対話でもある)」ならば、過去を冷静かつ客観的に観察しつつ、3国関係の「喉に刺さった棘」を時間をかけて、少しづつ除去していく方法を考え、実行するべきであろう。まず、既に部分的には始まっているが二国間(日韓、日中)での歴史研究プロジェクトを民間ベースで推進していくことである。具体的な歴史問題の一覧表の作成、この問題に対する各国の解釈・立場の一覧表とその客観的史資料・証拠、これに対する関係国の反論とその証拠史資料、これらを第3国の歴史家がコメントし、その根拠を提示する、という形での「不合意の合意(agree to disagree)」形式の暫定的結果を示す。つぎに、これと併行して、教育現場での歴史問題に関するロールプレイを採用していく。3カ国で実験的に小規模で行い、問題点を摘出して修正し、この方法論を拡大していく。
第3に、文化交流とりわけポップ・カルチャーの交流を活発にするための政策を積極化する。第4に、前回(本欄9月7日付け拙稿370号)提案した「東アジア版のMDGs」を創設し、この進展をにらみつつ、日中韓が共同で東アジア各国に共同のODAを供与していく。対外援助は外交の手段であり、まさに国益と密接に結びついていることはいうまでもないが、冷戦期の戦略援助的ではなく、東アジアの民生の向上を中心とした共同プロジェクトを推進していくことが、結局はこの地域の平和と安定につながり、各国の国益になるのである。
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