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2007-10-05 00:00
連載投稿(1)「性善説」「性悪説」から見る南北朝鮮の関係史
大江志伸
読売新聞論説委員
国家間の関係は、個人間と同様に、「性善説」対「性悪説」のどちらに立つのかによって、基本構図が決まる。互いに性善説に立つならばゆるぎない同盟関係となる。逆に性悪説をとれば、敵対関係となる。そして、一方が性善説をとり、他方が性悪説をとれば、状況は複雑になる。前者は、自らの「性善さ」を立証しようとするのに対し、後者は懐疑的な対応に終始する。南北朝鮮の関係史をこの「性善説」「性悪説」の視点から再定義すると、次のようになるだろう。
〔性悪説対性悪説〕1972年7月4日の南北共同声明から1991年の南北基本合意書採択まで。7・4共同声明は米ソデタント、米中接近という国際環境への対応に一義的な狙いがあった。91年合意もまた冷戦終結という国際環境の激変が生んだものだ。双方の敵愾心が解消することはなかった。
〔性善説対性悪説〕韓国の一方的な「性善説宣言」、それが2000年6月の第一回南北首脳会談だった。金大中氏が金正日氏と交わした共同宣言は、自主的な統一や、離散家族、経済での協力を確認し、韓国側は開城工業団地の開設など、「性善説の立証」に努めた。しかし、北朝鮮は一向に改善しない対米、対日関係などから、体制維持への不安をぬぐえず、核・ミサイル開発へと傾斜していった。
今回の首脳会談で、南北構図はどう変わるのだろうか。「韓国の性善説」対「北朝鮮の性悪説」という構図は基本的に同じである。だが、北朝鮮が固執する「性悪説」つまり対外不信は、以前よりレベルが低下する可能性が出てきた。
第一の理由は、盧武鉉大統領と金正日国防委員長が4日署名した「南北関係発展と平和繁栄のための宣言」が示すように、韓国は「性善説宣言・立証」段階から「性善説実行」段階へと明確に踏み出したことにある。首脳宣言は、「朝鮮戦争終戦宣言の推進」を柱に、「共同繁栄のための経済協力拡大」で合意した。海州付近に「平和協力特別地帯」を設けて共同漁業区域の設定や経済特区建設を推進する。南浦には造船協力団地を作る。インフラ整備にも取り組む。宣言にある共利共栄の「有無相通ず」の原則は、一方的な韓国による「性善説実行」と読み替えてもよい。
第二が、次の展望が見えてきた六カ国協議との関連である。米国がテロ支援国家指定や敵性国家リストから北朝鮮を解除する方向へと動けば、韓国の一方的な「性善説実行」と相乗効果を生み、北朝鮮は「性悪説」の立場を修正することも考えられる。韓国はなぜ「性善説」へとのめりこむのか。日本では、金大中、盧武鉉の両大統領の個性、それを支持する北朝鮮融和・反米層(いわゆる三八六世代)の増加、同一民族という情緒的要素、赤化統一に固執する北朝鮮による対南工作の成果、などの視点から語られるケースが大半である。しかし、ここには重大な盲点がある。独裁者、金正日の死という確実にやってくる不確定要素である。(つづく)
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