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2024-11-24 00:00
(連載2)ICC(国際刑事裁判所)のイスラエル首相・前国防相の訴追
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
だが、検察官の逮捕状要請から正式決定まで6カ月もの時間があった。ICCにとっては、アメリカの金融制裁に対応する準備を検討するための時間だったはずである。工夫に工夫を重ねて、アメリカの金融制裁をかいくぐって、活動を続けるための措置を検討したはずだ。職員の多くは、自らの金融資産の防衛措置を個人努力でとっただろう。組織としてのICCも同じであったはずだ。
なおオランダの国内法整備・運用にあたってのオランダ政府の協力は、アメリカの制裁をかいくぐるために、ICCにとっては極めて重要な要素である。ただICCにとって不確定要素になっているのは、オランダで直近の選挙で反移民政策を掲げる極右と描写される自由党が第一党になったことだ。絶対多数ではなかったため、党首のウィルダース氏が首相になるほどではなかった。しかしウィルダース氏の自由党の影響力が強まったことは当然である。反移民とは、実態として、反イスラムである。ウィルダース氏は、かなり踏み込んだイスラエル支持者でもある。今回のICCの逮捕状発行を快くは思っていないだろう。とはいえオランダ政府は、いち早くICC支持の声明を出しており、大勢は変わっていないことをアピールしている。
締約国の支持は、国際世論を喚起してICCの活動に有利な環境を作るためにも、具体的な工夫の措置をとるためにも、重要な要素である。しばしば指摘されてきているように、日本は財政貢献においてICCの筆頭格の国であり、その存在感は小さくはない。残念ながら、これまでのところ、日本のICC支援といえば、ロシア・ウクライナ戦争をめぐる活動に特化しており、ガザ危機をめぐっては、発言を控える傾向が続いている。 逮捕状の正式発行後の11月22日の記者会見で、林正官房長官は、「パレスチナ情勢にいかなる影響を与えるかの観点も含め、捜査の進展を重大な関心を持って引き続き注視する」と述べるにとどめた。
これが対ロシアの話題であったら、「国際社会の法の支配を守る」といったテーマに引き寄せた発言を行っただろう。ガザ危機であれば、関心対象はせいぜい「パレスチナ情勢にいかなる影響を与えるか注視」にとどまっている。残念ではあるが、これまでもずっとこのような態度なので、驚きはない。少なくとも日本がICCの活動の阻害要因にならないことを祈るのみである。
「国際社会の法の支配」を推進すると述べる日本の立場は、単なる二枚舌で、信じるに値しない浅はかなアメリカ追随の文言でしかない、という印象を世界に流布するかどうか。その瀬戸際にはなってきている。(おわり)
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