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2024-11-18 00:00
IMFの経済見通しについて
真田 幸光
大学教員
中立的、科学的、客観的であると言われる国際機関である国際通貨基金(IMF)は、今般、「リセッション(景気後退)に陥ることなくインフレを抑制したと世界各国・地域の中央銀行を評価する一方で、来年の世界経済の成長率予測を下方修正し、戦争や貿易保護主義などによるリスクが高まっている。」と指摘している。即ち、IMFは今般発表した最新の世界経済見通し(WEO)で、世界全体の来年の成長率を3.2%と予測し、前回となる7月時点の予測から0.1ポイント引き下げている。
こうした一方、今年の成長率見通しは3.2%で据え置いた。来年のインフレ率は4.3%と、今年の5.8%から沈静化するとしている。IMFはここ数年、世界経済は中期的に、現在と同程度の弱い成長が続く可能性が高いと警告してきているが、各国が貧困削減や気候変動への対応に必要な資金を確保するには、この弱い成長では不十分であるともしている。そして、「下方リスクが積み上がっており、世界経済には不確実性が増している。」との見方を示し、「地政学上のリスクがあり、地域紛争がエスカレートする可能性もある。保護主義の台頭や保護主義的政策、貿易の混乱も世界経済に影響を与える可能性がある。」とのコメントも示した。
尚、IMFは経済見通しの中では米国大統領選挙については、明確には言及しなかったが、今般のトランプ氏勝利の結果がどのように影響するかも我々はフォローしていかなくてはならない。トランプ氏が公約に掲げている中国本土からの輸入品に60%、それ以外の国からの輸入品に10%の関税を課すという政策は、インフレを加速させ米国・連邦準備制度理事会(FRB)に利上げを迫る可能性もあるからであるが、この点は詳細に今後の動きを見極めなければならない。一方、トランプ効果と言われる米国をはじめとする先進国株式市場の株価高値維持が何処まで続くのかについても注意を払う必要はあろうと筆者は考えている。
IMFはまた、今年末までに100兆米ドル、世界全体の国内総生産(GDP)の93%に達すると予想されている世界の公的債務への懸念も表明している。債務急増は米国と中国本土が大きく影響している。IMFは各国政府に対し、借り入れを安定させる為の厳しい決断を下すよう強く促しているが、「借金をして経済を回していくような経済システム」がはびこっていると筆者は見ており、IMFの懸念と同様の懸念を筆者も持っている。そして、クリーンエネルギーへの投資、人口高齢化への対応、安全保障の強化を迫る圧力の中で、歳出削減への政治的意欲はほとんど見られない。この為、「債務見通しに対するリスクは上方向に強く傾いている。」とIMFは指摘している。
IMFは、ユーロ圏の来年の成長率予想を1.2%と7月時点の予測から0.3ポイント引き下げているが、特にドイツとイタリアで製造業の低迷が続いていると指摘している。また、金融政策引き締めによる影響を踏まえて、EV生産の拠点として期待されているメキシコの今年の予測は主要経済国の中で最も大きく引き下げられ、来年の見通しも下方修正された。中国本土の今年の成長率見通しは、不動産部門の不振と消費者信頼感の低さを理由に、前回予想の5%から4.8%に引き下げられ、来年の予測は4.5%に一応据え置かれた。一方、米国については、今年の成長見通しを2.8%、来年の見通しを2.2%に上方修正し、その理由を消費の伸びとしているが、上述をした「借金による消費拡大」に問題は発生しないのかと筆者は疑問を持って見ている。
我が国・日本は今年が0.3%、来年が1.1%の成長と予想されている。今年は0.4ポイント引き下げられたが、一時的な供給障害と前年のインバウンドブームによる影響を反映させたとIMFは説明、来年の見通しは0.1ポイント引き上げている。また、IMFは、金融政策が意図した以上に成長に打撃を与え、新興国や途上国に於ける政府債務負担を悪化させるリスクに世界は直面していると指摘し、気候変動や戦争、地政学的な緊張を要因に、食料やエネルギー価格の高騰が再燃する恐れもあるとの景気下振れリスクを指摘している。いずれにしても、不確定要因が多く、斑模様and/or不透明な世界経済見通しとなっている。
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