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2024-09-23 00:00
(連載1)ロシア・ウクライナ戦争の調停者を務めることができるのは誰か
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
International Crisis Groupという紛争分析の業界では世界で最も信頼されているシンクタンクの一つが、9月末の第79回国連総会(国連創設79年目の会期)の開催にあわせて、「国連が対応しなければならない10の課題」という論説を出した。最も深刻な問題である第1番目の課題として、ガザ危機があげられた。スーダン、ミャンマーの危機が続いた。非常に特徴的なことに、ウクライナ情勢は、国連が対応すべき課題から外された。ガザ危機と並んで、あるいはそれ以上に、安全保障理事会を分断している問題だ。国連が取り組まなくていい問題として扱われるのは、奇異であるようにも感じる。しかし、実際のところ、ロシア・ウクライナ戦争が国連安全保障理事会や総会で議論される機会は少なくなっており、国連が調停に向けた努力をする機運も乏しいように見える。
International Crisis Groupは、この点について、但し書きのような説明を付した。それによれば、国連がトルコとともに調停に入って達成した「黒海穀物イニシアチブ」が破綻した後、国連が果たせる役割はなくなってしまった、とのことである。もちろん将来にわたり永遠に国連には何もできない、と断定できるわけではない。しかし安全保障理事会で孤立しがちなロシアは、拒否権発動を繰り返す。ウクライナも、スイスで開催した「平和サミット」において国連に何も目に見えた役割を与えなかったように、国連には何も期待していないようだ。
加盟国193カ国が加入している国連憲章体制において、「国際の平和と安全の維持」(憲章1条1項で明記されている目的)に関して国連組織に与えられている特別な役割を考えると、これは非常に残念な事態である。あるいはブリュッセルに本部事務所を置くInternational Crisis Groupの「二重基準」を示す事態かもしれない(他の地域での紛争に関しては国連が介入して果たすべき役割を説く一方で、欧州での紛争では国連の介入を拒絶する態度をとっているかのように見える)。だがいずれにせよ、これは一つの冷静な現実の観察の結果ではあるだろう。ロシア・ウクライナ戦争で、国連は蚊帳の外に置かれている。それでは他の国際機関には何か特別な役割が期待されているか。ドンバス戦争の際には、OSCE(欧州安全保障協力機構)の関与が求められた。ウクライナもロシアも、その他の関心を持つ主要国も、全て加入しているのが、OSCEだからだ。しかしドンバス戦争の調停の結果であった「ミンスク合意」が崩壊し、ロシアによるウクライナ全面侵攻を開始してOSCEの監視団が撤退したときから、OSCEは蚊帳の外の存在となった。特にウクライナの人々の間でのOSCEに対する不信感は根深い。ロシア・ウクライナ戦争の文脈でOSCEが言及される機会は全くなくなってしまい、代わってウクライナ政府によってNATOとEUへの期待が強く表明されるようになった。
しかしウクライナにとってNATOやEUへの期待は、自国を支援する諸国のグループへの期待である。必ずしも調停の期待ではない。したがってロシアにとっては、NATOやEUは敵側の勢力である。将来にわたって、ロシアはこれらの地域機構が主導する調停を信用しないだろう。だがそうなると国際機関(地域機構)の中には、ロシア・ウクライナ戦争の調停にあたることができる候補が存在していないことになる。国連とともに「黒海穀物イニシアチブ」合意の調停にあたったトルコは、引き続き重要な国だ。ロシアとウクライナの双方に対して比較的良好な外交関係を維持している。しかし調停者としてのトルコへの期待は、しぼんでいる。エルドアン大統領が、ロシア・ウクライナ戦争や黒海情勢について発言する機会も、目に見えて減ってきているように思われる。(つづく)
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