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2024-08-05 00:00
ウクライナのアフリカでの暗躍は危険な火遊びか
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
マリ北部で、軍事中央政権を支援してアル・カイダ系勢力のJNIMと戦っていたロシアの民間軍事会社ワグネルグループの戦闘員50~80人が戦死したというニュースが出た。注目すべきは、戦果につられたのか、ウクライナ国防省情報総局(GUR)報道官が「マリ反政府勢力に必要な情報を与え、ロシアの戦犯を相手に成功的に軍事作戦を遂行した」と明らかにしたことである。『キーウポスト』が、マリ反政府勢力がウクライナ国旗を持って立っている写真も公開した。
ウクライナのアフリカでの反ロシア活動は、かねてより様々な局面で指摘されてきたが、GURが自ら堂々と認めるのは、異例である。華々しい戦果が出たところで、存在を誇示したくなったということか。マリでは、2012年から内戦が続いている。当初は北部トゥアレグ人たちの独立運動が発端だったが、すぐにアル・カイダ系のイスラム過激派組織が勢力を伸ばし、中央政権と長期に渡る戦争を遂行している。治安の改善が果たされないため、2020年に成立した軍事政権は、国連PKOやフランス軍の撤退を求め、代わりにロシアの軍事作戦を歓迎していた。
一部報道では、GURはトゥアレグ人系のAzawad勢力を支援したということだが、Azawadは過去10年ほどの間、アル・カイダ系のJINIM系の諸勢力に押されて、ほとんど活動できていなかったはずである。ワグネルとの大規模な衝突を前提とする軍事作戦を遂行する能力を持っていたとは想像しにくい。GURがJNIMを支援したと考えるほうが、自然である。もしそうでなければ、西アフリカサヘル地域でアル・カイダ系の勢力としのぎを削るイスラム国(IS)系の勢力とつながっているという想定も出てくる。IS系の勢力が、モスクワなどロシア国内で頻繁にテロ攻撃を行っている状況との関連性は、かねてより疑念がささやかれていたところだ。ウクライナGURは、スーダンなど他のアフリカ地域においても、ワグネル戦闘員に対する攻撃を行ってきていると、従来から指摘されてきていた。
ウクライナにとっては、敵の敵は味方、アフリカの天然資源がロシアの資金源として活用されるのを防ぐ、といった発想方法があるのだろう。だがサヘル地域各国で、旧宗主国のフランス軍が次々と追い出され、ニジェールに置かれていたアメリカの軍事拠点も追い出されたのは、テロ組織掃討作戦に成果が見られないことが主な理由である。ウクライナが、マリでテロ組織系の反政府勢力を公然と軍事的に支援するという状況は、アフリカ人には受け入れられないはずだ。欧米諸国もウクライナの動きを熟知しているようには見えない。日本では、政府も研究者もジャーナリストも軍事評論家も、ウクライナの評判が下がることについては、従来の見ざる言わざる聞かざるの政策を取り続けるだけだろうが、欧米諸国にとっては、米国大統領選挙も佳境に入った時期での複雑な事態の展開だ。ヨーロッパとアフリカの戦争が結びつき、今後の国際政治情勢にさらなる暗雲をもたらす事情を示す動きだと言える。
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