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2024-05-14 00:00
岸田首相が訪朝する可能性はあるのか?
岡本 裕明
海外事業経営者
今年の能登半島地震に対する見舞電報あたりから風向きが変わった北朝鮮関係。岸田首相は訪米した際にバイデン大統領に仁義を切り、「岸田が訪朝し、金正恩氏と会談することへのコンセンサスをとった」ということになっています。仮にバイデン氏のコンセンサスであればアメリカ大統領選の結果が出る前に実行することが望ましく、秋の総裁選の前に行うことが戦略的とも言えます。ではそれが実現する可能性があるのか考えてみましょう。
まず、何のための訪朝か、です。表向きは拉致被害者問題の解決を第一義にもってきていますが、それ以外にも度重なるミサイルの発射実験、サイバーテロ問題、アンダーグラウンド経済、大きなピクチャーでは朝鮮半島の安定化という題目もあります。特にロシアの下請け化が顕著で軍備増強を主眼とする現在の金氏の姿勢にストップをかけること、韓国との対話路線への回帰を促すことなどイシューは山積しています。一方、金正恩氏が西側首脳と会ったのはトランプ氏との数度の会談だけであり、閉ざされた社会に風穴を開ける必要があります。グローバルな見地からは対話外交の再開という位置づけがやりやすいのだろうと思います。特に金氏が尹錫悦韓国大統領と厳しい関係に陥っている中、間を取り持つ役目も必要でしょう。一部には岸田氏が金氏と会談すれば尹錫悦氏は対日関係を見直すのではないか、という見方もありますが、私は逆で日韓関係を強化するために尹錫悦氏の意志を伝えるという使命を持たせるべきかと思います。
このような外交戦略を考えると2つの準備作業が必要です。1つは実務レベルでの事前交渉をどなたかが訪朝して行うこと、2つ目は岸田氏の訪朝が電撃訪朝であることです。事前の実務者交渉は外交において必須のプロセスであり、この実務者交渉が実りあるものにならない限りトップ会談は実現しません。では誰が事前に行くのか、です。小泉純一郎氏が訪朝した時は田中均外務省アジア太平洋局長(当時)が1年以上かけた秘密裏の調整を行ってきました。もしかするとすでに秘密交渉が進展しているのかもしれません。そうであるなら夏までに大枠の話ができるのか、これが岸田氏にとっての訪朝のキーになります。もしもこれから訪朝秘密会談ないし、第三国での秘密会談に臨むなら私ならベストな人選として上川陽子外相だと思っています。
ではなぜ電撃にすべきなのでしょうか?それは世論がうるさいからです。例えば拉致問題の家族会はテレビなどで頻繁にお見掛けしますが、実態は「救う会」(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)が実務を牛耳っているとされます。「救う会」の会長は今は麗澤大学の西岡力先生です。西岡先生とは7-8年前だったと思いますが、私も東京で半島研究者が集まる学者会議に呼ばれて意見陳述などでやり取りしたことがあります。学者先生にもいろいろなグループがあり、西岡先生はかなり保守派の先生であります。救う会には筋の良くない人も絡んでいるという話もあり、もしも岸田氏が訪朝することが事前にわかっていると極めて思想的な展開が予想され、バランス外交ができなくなる公算があります。それを防ぐには前述の通り、実務者が道筋をつけ、そこに沿った首脳会議を執り行う筋書きを岸田氏が誰にも邪魔されずに行うことが最重要になります。
では成果について何を期待すべきか、です。まず、拉致被害者の件については個人的には解決はたやすくないと思います。そもそも現時点で何人生きているのか、その上、生きていても思想教育を施している可能性が極めて高いはずですのでご家族が期待した形になるのかある意味、怖いのです。金氏にとっても自分が生まれる前の話です。扱いにくい話ではあるかと思います。拉致被害者最優先主義は第一期安倍政権の方針で打ち出したものですが、それが北朝鮮を貝に例えれば、固く閉ざした原因ともされます。トランプ氏は金氏をロケットマンと揶揄しながらも対話姿勢を見せたからこそ、成功裏ではありませんでしたが、金正恩氏が胸襟を開いたとも言えます。私が期待するのはまずは西側諸国と久々の国際会談を行うこと、そして岸田氏が上述の山積する問題について丁寧に説明するところからスタートすべきでしょう。つまり一度や二度の訪朝で成果を期待するのではなく、日朝が対話できるテーブルを作るという合意だけで十分な成果だと思います。もっとも金正恩氏はちゃぶ台返しをする可能性も高いと思います。が、それを言ってしまっては外交は何も始まらないのです。まずは道筋を作ることから始めるべきです。例えば北朝鮮が韓国との関係をあたかも戦時体制のごとく表現していますが、このような不必要な緊張は国際平和の観点から緩和させる努力をしなくてはいけません。西側諸国や国連はすぐに制裁という言葉を使いますが、これは東アジアのメンタリティではあまり効果的ではないと考えています。ムンクの叫びではありませんが、相手が何を欲しているのか、聞く耳をもつことも外交の手段です。その点では岸田氏は適任でしょう。自民党の立て直しに時間がかかる中で岸田氏は当面、得意の外交でポイントを稼ぐしかありません。その点からも私は何か、策略を練っているのではないかという気がしてなりません。
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