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2024-04-23 00:00
中国本土のデフレ懸念について
真田 幸光
大学教員
最近は、「米中覇権争い」の中、「追う国の強み」を示す中国本土を意図的に封じ込めようとする中国本土批判の声が多く聞かれるようになり、「不動産バブル崩壊による中国本土経済の混乱」なども指摘されているが、更に、「中国本土にはデフレリスクがある。」といった声も聞かれるようになっている。筆者は、「中国本土には、まだまだ消費財に対する人民の消費意欲が残っている、電気・水道・ガス・道路などに代表されるインフラ開発の需要が残っており、こうした実需があるから、習近平政権がきちんと経済成長速度に合わせて、消費の拡大、インフラ投資の拡大を誘導していけば、5%程度の安定成長を十分に具現化出来る。」と考えており、中国本土のデフレという懸念は、短期的には存在しているが、中長期的な視点からすれば、やや行き過ぎた懸念であると考えている。
しかし、世界には、「今や、中国本土主導で推進されるようになっている経済協力体であるBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国本土、南アフリカ共和国)会議の一員でもあるブラジルの化学業界からは、中国本土発のデフレ輸出についての懸念が示し始められており、これを受けて、ブラジル政府は中国本土産の鉄鋼・石油化学製品などに対して反ダンピング調査に乗り出し始めている。」との見方が出てきている。中国本土の超低価格攻勢により、ブラジル経済が悪影響を受け始めていると言うことを前提とした動きをブラジルも示し始めているということである。韓国の鉄鋼メーカーであるポスコなども中国本土産など輸入鋼板に対するダンピング調査の申請を検討中である。こうした一方、本年1~2月の中国本土の鉄鋼輸出量は2016年以来最大となる1,590万トンを記録したと報告されている。更に、鉄鋼産業だけでなく、主要産業で超低価格の中国本土製品が世界で販売拡大され、「中国本土発デフレ輸出」に対する危機感が高まっている。不動産景気が鈍化、内需消費が低迷している中国本土が国内在庫を低価格にして輸出、在庫整理をしており、それは鉄鋼、電気、自動車、バッテリー、石油化学、流通など主要産業分野で見られているとの声が出てきているのである。中国本土が世界市場にこうしてリリースした超低価格製品は、短期的には消費者にメリットを与えようが、企業や産業全般には、中長期的には悪影響を与える可能性がある。世界各国の企業は安い中国本土産製品と競争する為に利益を削ることになろう。新型コロナウイルス感染拡大によって負債が増えた企業が最近、業績改善を期待していたが、中国本土発デフレ輸出により、再び、業績悪化しかねないと言った声までも出ている。
中国本土の税関当局である海関総処が2024年3月7日に発表した本年1~2月の輸出入統計によると、中国本土の総輸出入額は6兆6,100億人民元と前年同期対比8.7%増となり、特に輸出額は3兆7,500億人民元と前年同期対比10.3%も増えている。集積回路、船舶、一般機械及び機器、コンピュータ、自動車部品など電気機械製品と衣類、繊維、プラスチック製品、バッグ、おもちゃ、家具など労働集約的製品の輸出が全て増加していると報告されている。中国本土政府・商務部は、2カ月間の輸出実績について、「市場を多元化して輸出構造を最適化した結果である。」と説明してはいるが、周辺国の反応は異なる。1990年代後半、中国本土が「世界の工場」に急浮上した「1次チャイナショック」の時、中国本土産低価格生産品は米国をはじめとする主要国の消費を底上げする効果があった。但し、その反面、各国の製造業の崩壊が続き、産業競争力の弱体化も避けられなかった。そして、現在直面している「2次チャイナショック」は長期景気低迷を誘発するという懸念が大きいと見られている。低価格製品が大量輸入されると物価を下げる効果があるが、その分、該当国の産業基盤は揺るがされる。今は安価な製品を消費するメリットがあるが、長期的には中国本土との価格競争に敗れ、自国産業が衰退することとなれば、雇用減少、消費減少の悪循環に陥ることにもなりかねない。実際に、中国本土の低価格鉄鋼、石油化学製品は東南アジア市場秩序を台無しにし、それが更に中南米にまで広がりつつあるとの声も出てきている。一方、現在、アリエクスプレス・テムなど超低価格流通販売企業が、中国本土の消費財を、北米を含むグローバル全域に販売拡大しようとしている。需要が鈍化した電気自動車、バッテリーも価格を更に下げている。このように、中国本土のデフレ輸出が先進国のみならず、途上国まで拡大すれば、1990年代よりも広範な悪影響を世界経済に及ぼす可能性もあることは間違いなかろう。
更にこうした中、主要国が自国産業の崩壊を懸念して規制を更に検討し始めていけば、閉鎖的な世界経済となる危険性もある。特に、米国でトランプ氏が再び大統領になれば、「自国第一主義」は米国に、そして欧州やその他の国にも、更に広がっていく危険性があろう。そして、昨年9月、「中国本土産電気自動車が莫大な政府補助金で価格を人為的に下げて欧州市場を歪曲している。」として、違法補助金調査に着手した欧州連合(EU)は、今年下半期、中国本土産電気自動車に対して関税を課す方針とも見られている。ブラジル政府も自国産業界の要請により、過去6カ月間に鉄鋼、化学製品、タイヤなど最低6つの分野で反ダンピング調査を進めている。ブラジルの鉄鋼業界は、政府に中国本土産などの輸入鉄鋼製品に対して9.6%から最大25%の関税を課すことを要求している。尚、上述したデフレ(deflation)は、ご高尚の通り、景気後退の物価の下落を意味する。最近、中国本土は内需が不振となり、在庫が急増していることから、海外に中国本土生産品を安価で輸出している。これにより、多くの国々が安価な中国本土商品を輸入する状態となっていることをここでは指していて、これを、「中国本土発デフレの輸出」と称している。
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