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2023-10-30 00:00
第3期習近平体制の内政・外交動向⑦
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
10月24日、20日から開催されていた中国の第14期全国人民代表大会(全人代)常務委員会第6回会議が閉幕し、焦点の人事案件が可決・公表された。8月末から動静が不明であった李尚福は国防部長と国務委員、国家中央軍事委員会委員から解任され、7月末に外交部長から解任されていた秦剛も国務委員から解任された。この3月に発足したばかりの第3期習近平体制における「実働部隊」である国務院(政府)の要職から、副総理級の国務委員を兼務した外交と国防のトップが「更迭」されたのは異常事態と言わざるを得ない。そして、こうした流れに拍車をかけたのが27日早朝に飛び込んできた李克強前総理・党中央政治局常務委員の急死(享年68)という事態であった。以下、その中身をみていこう。
まず「李尚福更迭人事」であるが、後任の国防部長の発表が無く、国家中央軍事委員会委員の解任が発表された。これは、27日の中国共産党中央政治局会議でも開催の言及がなかった第20期中央委員会第3回総会(以下、「3中総会」と略)が未開催のためである。本来の手続きなら、党の会議である3中総会において李尚福の党中央軍事委員会委員解任が決定され、新たな軍事委員会委員が任命されて以降、全人代会議における新たな国防部長・国家中央軍事委員会委員の任命が行われるはずであったが、今回は党会議が後回しになり、全人代会議が優先されるというイレギュラーな人事が行われたのである。しかしながら、新たな国防部長不在でも29日から始まった「中国版シャングリラ会議」と揶揄される第10回北京香山フォーラムには「ホスト役」として党中央軍事委員会副主席の張又侠、何衛東が出席しており、「装備畑」繋がりで李尚福との連座「更迭」も噂されていた張副主席の政治生命は当面、延命ということであろうが、これも恐らく今後、年内開催が予定される3中総会次第である。問題は何故、このようなイレギュラーな政治日程が組まれたかである。理由は習近平党総書記の「ゴリ押し」とでも言うべき地方視察敢行と、第3回「一帯一路」サミットの開催である。
10月10日、7日のハマスのイスラエル攻撃や9日の米超党派議員団への対応を経た習総書記は江西省視察に出た。13日までの視察中、省内の九江、景徳鎮などを廻り12日には南昌で長江経済ベルト発展座談会を主宰した。同座談会には視察同行者の常連である蔡奇、李幹傑、何立峰に加え、北京から李強総理、丁薛詳副総理、鄭柵傑国家発展改革委員会主任を呼び付けて出席させ、長江沿岸の重慶市、江西省、上海市のトップを列席させたのである。そのテーマは、本年の地方視察の主眼となる省・市・自治区の単独発展ではなく、南部デルタ地域、西部発展、東北振興、長江ベルトといった区域発展であったが、別に喫緊のテーマではない。まして小生が、中東紛争の再燃で延期・中止の可能性さえ予想していた第3回「一帯一路」サミットが17~18日と通常開催され、世界の「発展ベルト」(中国語:発展帯)としての繁栄や人類の「幸福ルート」(中国語:幸福路)拡大が倦まず主張されたのであるから尚更のことである。小生は、習党総書記は3中総会の開催を優先すべきであったと考えるが、26日から訪米した王毅外交部長(党中央政治局委員兼外事弁公室主任)はブリンケン米国務長官と会談し、11月のAPEC首脳会議(米サンフランシスコで15~17日開催)に際した習近平とバイデン米大統領の首脳会談を設定した模様であり、外遊前の2週間以内に3中総会招集は難しいであろう。結局、外遊後11月末の政治局会議で3中総会開催を打ち出すしかなく、それは12月中となるであろうが、党会議を受けた経済対策会議等は2024年1月までずれ込むことになろう。
そして、こうした不透明感の中、10月27日午前中に飛び込んできたのが李克強前総理の訃報であった。10月30日現在、追悼大会の開催や、これを仕切るための葬儀委員会は発表されておらず、服喪期間における李前総理の遺族の意向待ちというところであろうか。2022年11月30日に亡くなった江沢民元国家主席に対しては同12月6日、大規模な追悼大会が北京で開催され、葬儀委員会の主任委員を務めた習近平が弔辞を読んだ。また当時、上海から北京まで江沢民の亡骸に同行したのは蔡奇党中央筆頭書記であった。今回は北京八宝山墓地における葬儀のみなのか、あるいは追悼大会が開かれるのかが注目されるが、いずれにせよ中国の「内憂外患」はどこまで続くのであろうか。
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