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2023-10-10 00:00
第3期習近平体制の内政・外交動向⑥
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
9月29日に始まった中国の秋季恒例の長期休暇が10月6日、終了した。その前後には浙江省杭州で第19回アジア大会(9月23日~10月8日)も開催され、開幕式典には習近平国家主席が、閉幕式典には李強国務院総理がそれぞれ出席した。習主席にとって浙江省、その省都である杭州は、かつてトップの党委員会書記として勤務(2002~07年)した場所であり、2016年9月のG20サミットの開催に続き「古里に錦を飾った」形となった。しかしながら、9月末から10月初旬にかけて中国の内政・外交動向には注目すべき事象も確認されたので以下、細部みていこう。
今回は外交動向からみていくことにする。10月9日、習近平国家主席は北京でシューマー米上院院内総務(民主党議員)が率いる米議会上院民主・共和両党代表団と会見した。会見の席上、習主席は「米中関係は世界で最も重要な二国間関係であり、両国がいかに付き合っていくかが人類の前途と運命を決定する」と切り出した。そして、習主席は「二大大国として米中は、大国の矜持(中国語:胸懐)、視野及び重責を示し、歴史・人民・世界に対する態度に基づいて関係をうまく処理し、『相互尊重・平和共存・ウインウインの協力』を行い、両国人民の福祉を増進し、人類社会の進歩を促進して世界の平和と発展のために貢献しなければならない」と言い切ったのである。さらに、習主席は「もっと多数の米議会議員が訪中して中国の過去、現在、未来をより良く理解するのを歓迎する。米中両国の立法機構がもっと相互訪問、対話、交流を行って相互理解を増して米中関係の安定化、好転に積極的に貢献するように希望する」と付け加え、2022年8月のペロシ米議会下院議長(当時、民主党議員)の台湾訪問に伴う米中関係悪化を「否定」軌道修正しようと試みたのである。特に習発言の中の「相互尊重・平和共存・ウインウインの協力」は、CCTV報道によれば「私が提起し、その目的は新しい歴史的時期において、米中関係を安定化、好転するのを推進し、二大大国が正しく付き合う道を探し当てるためである」ことが明らかになった。こうした意向を受けてシューマー一行と会見した趙楽際全人代常務委員会委員長は、「習主席が提起した三原則は、米中関係発展の根本的な必須原則である」とし、「中国の全人代は、米国議会との関係強化を希望し、理性・客観・公正の原則を堅持して意思疎通・交流を行い、小異を残して大同につき(中国語:求同存異)協力を促進する」と強調した。こうした流れは、6月のブリンケン米国務長官の訪中から始まり、8月にはレイモンド米商務長官が訪中して米中経済貿易関係の安定化に向けて中国の商務部と新たな交渉ルートを設置することで合意した。また、これとは別に9月には、米中両国間で「経済領域工作組」(経済工作組、金融工作組)を設置したとの報道があった。一種のワーキンググループ(WG)として経済工作組は両国財政部門の次官クラス、金融工作組は中国人民銀行、米財務省の次官クラスがそれぞれ主管するという。さらに、経済貿易分野に先立ち、目立たない動きであったが軍事分野でも米中両軍が「交流」意見交換したことが判明した。それは、8月31日の中国国防部定例記者会見で明らかになり、同月にフィジーで開かれたインド太平洋地域国防軍司令官会議に出席した中国の徐起零副参謀長と米国のアキリーノインド太平洋軍司令官が現地で会談していたのである(米国防省スポークスマンも確認)。同記者会見では、中国の国防部スポークマンは「米中両軍の交流は決して中断状態ではなく、軍事外交ルートを通じて双方は率直かつ有効な意志疎通を保持している」としながら、「現在、両軍関係には確かに多くの困難と障害が存在しており、こうした局面は完全に米国側が作り出したことも認めなければならない」と強調したのである。他方、こうした米中関係正常化に向けた動きを「補強」支援したのが「バックチャンネル」伝統的な米中関係の存在である。7月20日、習近平国家主席は、訪中した米国のキッシンジャー元国務長官と会見し、「博士は100歳の誕生日を迎えたばかりであり、訪中回数は100回以上となった。この二つの『100』を加えると、今回の訪中は特殊な意義を有する」と称賛しつつ、「米中両国はまた、一体どこに向かうのか分からない十字路にあり、双方はまた再度選択しなければならない」、「博士や米国の有識者は、引き続き米中関係が再度、正しい方向に向かうよう建設的な役割を果たして欲しい」と強調したのである。さらに9月12日、習主席は、第二次世界大戦中に中国(当時は蒋介石の国民党政権)を支援した米義勇軍航空部隊「フライング・タイガース」(中国語:飛虎隊)の退役軍人へ書簡を出し、「かつて米中両国人民は、日本のファシストとの軍事闘争で一致して敵愾心を燃やし、流血と戦火に耐えて深い友情を残した」とし、「今後の米中関係の希望は人民にあり、基礎は民間にあり、未来は青年にある。新時期の米中関係の健全で安定的な発展には、新時期のフライング・タイガース隊員の参加と支持が必要であり、伝統的な精神が両国人民の中で子々孫々継承されるように希望する」と主張したのである。では、米中関係は完全に正常化したのであろうか。習近平、趙楽際らVIP会見前日の9日、シューマー米上院院内総務一行と会見した王毅外交部長は、訪中を歓迎しながら「米中双方は、(2022年の)インドネシアバリ島における両国元首の重要な共通認識を確実に履行して、関係の安定化と好転を勝ち取り、両国に幸福をもたらし、世界へ恩恵をもたらさなければならない」と主張し、あくまで昨年来の「合意事項」履行・達成を強調したことから11月の米サンフランシスコにおけるAPEC会合への習近平国家主席参加、バイデン米大統領との首脳会談は「未定」ということを示唆した。その前に第3回「一帯一路」国際サミット開催や、中国共産党の第20期中央委員会第3回総会(3中総会)の準備があるのであろう。では、肝心の中国の内政動向はどうであったのか。
前回の9月19日付拙稿の末尾で触れたような李尚福国防部長の「解任」人事は10月10日現在、行われていない。肝心の全人代会議が開催されなかったからである。しかし、国務院では財政部(9月28日)、科学技術部(10月7日)における党組書記(部門トップ)人事が先行され、「閣僚」交代人事は全人代会議の開催待ちとなった。一方、9月27日には中国共産党中央政治局の全体会議が開催され、3月以降ここ半年間の腐敗巡視活動の成果報告が行われた。対象は国有企業、金融部門、体育領域の党建設であり新たな成果はあったが、「一部の問題も存在する」と指摘されており、「腐敗を敢えてしない、不可能にする、考えない(中国語:不敢腐、不能腐、不想腐)ように一体的に行う」と強調したのである。こうした流れからすれば、不祥事が噂される李国防部長の「解任」更迭人事も順当に行われるのではないかと推測されるのだが実現してない。翌28日に開催された中国国防部の月例記者会見は、安全保障を議論する第10回北京香山フォーラム(2006年創設)が、10月29日から31日まで行われることを公表したことから李国防部長の動静が注目される。さて、10月に入って確認されたのが全国宣伝思想文化工作会議の開催(7~8日)であり、会議の席上で「宣伝思想文化工作は党の前途と運命に関わり、国家の長期安定に関わり、民族の凝集力に関わるという極端に重要な活動である」とされた中国共産党の習近平総書記の重要指示であった。同会議には蔡奇中央政治局常務委員兼書記処筆頭書記が出席して演説し、「習近平文化思想」が初めて提起され、李書磊中央政治局委員兼書記処書記が、同思想の教育と徹底等に関して具体的な配置を行ったのである。過去、習総書記には強軍思想、経済思想、生態文明思想、外交思想、法治思想はあったが、文化思想の提起は初めてであったが、その中身は細部明らかでない。逆に問題は、中国の多数の重要分野における「習近平礼賛・賛美」の態度ではないか。若干古い資料であるが、8月9日付のCCTVは「人民の領袖:実務家・習近平」と題する記事を出し、習総書記が「無我の境地で人民に背かない」という態度で自分の探求心と決心を明らかにしてきたことを述べた。しかしながら、その内容はいかに読み込んでも、過去の習近平の思想と行動を吹聴する一種の「提灯持ち」の記事にすぎなかったことから考えても、現在の中国の「内憂外患」に対処するための新規事項(政策・人事)はみえないのである。
そんな中、10月7日には「中東の火薬庫」パレスチナ地区で、ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルの間に大規模な戦闘が発生してしまった。中国にとっても、ロシアのウクライナ侵攻に続く「想定外」の出来事であったろう。今回の戦闘が拡大して継続すれば、予定されている「一帯一路」サミットも延期・中止の可能性があり、習近平体制は安閑としてはおられず、正念場を迎えていると言っても過言ではない。
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