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2023-09-19 00:00
第3期習近平体制の内政・外交動向⑤
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
9月6日付の韓国「中央日報」日本語版は、同5日付の日経オンライン記事「習政権ウオッチ」(中沢克二編集委員兼論説委員記名)を引用し、不分明であった8月の河北省北戴河会議の内実を報じた(関連報道は8月21日付拙稿参照)。同報道によると、会議に出た長老指導者は、中国共産党の習近平総書記(70歳)に対し「『一般民衆の心が党から離れ、我々の統治そのものが危うくなりかねない』。そう真面目に思い始めた」と伝え、その代表者は「『これ以上、混乱させてはいけない』と従来にない強い口調の諫言を口にした」という。この時、先頭に立った長老こそ、元国家副主席にして江沢民元総書記の最側近で、かつて「無名の存在」にすぎなかった習近平の抜擢を進言して2012年以降の第1期統治体制成立の立役者と噂された曽慶紅(84歳)であると伝えられた。こうした苦言を聞いた習総書記は「(鄧小平、江沢民、胡錦涛という)過去三代が残した問題が、全て(自分に)のしかかってくる」とし、「(その処理のため、就任してから)10年も頑張ってきた。だが問題は片付かない。これは私のせいだというのか?」と言って怒り、側近に不満を表したというのだ。こうした夏の重要会議(非公式)の真偽は明らかでないが、巷間では7月末の秦剛外交部長の更迭に続き、8月末以降の李尚福国防部長(両者とも副総理クラスの「国務委員」という政府高官)の動静不明・更迭報道が喧しいところである。以下、肝心の中国の動向を細部みていこう。
9月6~8日、習近平党総書記は、東北部の黒竜江省を視察した。今回の地方視察は3月の全人代会議後、4月の広東省(南部戦区海軍部隊も訪問)以来、河北省(5月 習総書記肝入りの「雄安新区」の発展を確認)、陝西省(5月 省都西安で中央アジアサミットも開催)、内蒙古自治区(6月 国境防衛部隊も訪問)、江蘇省(7月 東部戦区司令部も訪問)、四川省(7月 西部戦区空軍も訪問)、新疆ウイグル自治区(8月 新疆建設兵団も訪問)に続く本年8回目のものであったが、7月以降の水害被災地の視察は初めてであった。随行者は蔡奇(党中央政治局常務委員、同書記処筆頭書記兼弁公庁主任で習総書記の秘書役)、李幹傑(党中央政治局委員、同書記処書記兼組織部長で高級幹部人事担当)、何立峰(党中央政治局委員で副総理 前国家発展改革委員会主任の経済ブレーン)、張又侠(党中央政治局委員兼軍事委員会副主席 後述)らであったが、水害被災地の「慰問」は二の次だったようであり、今回の中国東北部視察は経済上、軍事上の目的が主眼であった。先ずは経済上の目的であるが、黒竜江省視察途上の9月7日、習総書記は省都ハルビン市で「新時代における東北全面振興推進座談会」を主宰し、「東北地方が、国防・食糧・エコロジー・エネルギー・産業の五大安全保障上に占める重要使命を掌握し、ハイレベルの発展という主要任務と、新たな発展体制構築という戦略任務をしっかりと押さえなければならない」と強調したのである。同座談会には視察随行者とともに、北京から丁薛祥筆頭副総理(党中央政治局常務委員で前弁公庁主任)が呼び付けられ、新人の鄭柵潔国家発展改革委員会主任(前安徽省党委員会書記)に加え、遼寧省・吉林省・黒竜江省・内蒙古自治区の「三省一自治区」のトップである各党委員会書記まで参加しており、習総書記の東北振興にかける「本気度」が伺えた。そして、問題は軍事上の目的である。黒竜江省視察の最終日に当たる9月8日、習近平党中央軍事委員会主席は、張又侠同副主席らと北部戦区(旧瀋陽軍区)隷下の第78集団軍(旧第16集団軍基幹の主要戦闘部隊)を視察し、先ず水害への積極的な対応を称賛すると同時に、「軍事闘争準備の質とレベルを向上させ、重要難点課題への専用訓練と新たな戦闘力建設を強化し、集団軍隷下の作戦力、作戦ユニット(中国語:作戦単元)、作戦要素の融合・集中を強めて連合作戦システム(中国語:連合作戦体系)に有機的に組み入れなくてはならない」と強調したことから、同部隊への「期待感」もみえたのである。ところで、この習主席による第78集団視察を内外に報じたのは9月11日の中国メディアである。折から同10日、北朝鮮の金正恩労働党総書記兼国務委員長が首都ピョンヤンを出てロシア訪問に向かい、13日にロシアのプーチン大統領と首脳会談を行う直前のことであった。こうした「露朝接近」への配慮は、反対・けん制にしろ同調・期待にしろ、中国側にあったのだろうか。ここは近年の中朝関係の動向をみる必要があろう。
小生は、近年の中朝関係を「低調」とみている。確かに本年は、7月の朝鮮戦争停戦70周年記念活動出席で李鴻忠全人代常務委員会副委員長(政治局委員、前天津市党委員会書記)、9月の北朝鮮建国75周年祝賀式典出席で劉国中副総理(政治局委員、前陝西省党委員会書記)がそれぞれ率いる党・政府代表団の訪朝はあったが、いずれも「副職」(全人代常務委員会委員長、国務院総理といった本職の代理人)による「外遊」訪問活動にすぎなかった。しかしながら、7月に訪朝した李副委員長は金正恩総書記と会見し、「70年前、中国人民志願軍は朝鮮の人民・軍隊とともに抗米援朝の偉大な勝利を勝ち取り、鮮血で固めた(中国語:用鮮血凝結)偉大な戦闘友諠を成し遂げた」と記す習総書記の親書を手渡し、さらに「近年、習総書記は金総書記と5回会談を行い、中朝関係を新たな歴史的時期に引き入れた」とまで言及したのである。5回の首脳会談とは2018年における金正恩訪中(3月に初訪問、5月、6月と連続実施)と、2019年における金正恩訪中(1月)と習近平訪朝(6月、2005年10月の胡錦涛訪朝以来14年振り実施)に際して行われたものであるが、これ以降のハイレベル交流(ただし中朝間には、内外に全く報道されないVIPによる「内部訪問」という伝統が存在するため実態は不明)は未確認である。2019年以降はコロナ禍の影響もあり、朝鮮戦争開戦70周年の2020年には中朝ともに外遊を自粛してきての本年であった。また、小生が最も違和感を抱いているのが中朝軍事交流の不在である。近年、中国の「党・政府代表団」に軍人は含まれているのか否か、含まれていないなら「鮮血で固めた」伝統的な中朝友好関係を築く上で重要な役割を果たした中国人民解放軍による軍事代表団の単独訪朝の事実はあるのか否か等々、中国当局は全く明らかにしていないし、外交部や国防部の定例記者会見でも何ら話題にならないのだ。こうしたことから考えると、今回の「露朝接近」への中国側の配慮とは、習総書記の東北部振興の強調と、かつての朝鮮半島問題対処のための主力部隊であった第16集団軍を基幹に改編・強化された「第78集団軍」視察によって、“中露朝”連携への期待・要望が存在した可能性がある。
最後に、中国側の「軍事外交」防衛交流の「元締め」総責任者は誰になるのかと考えれば、それは中央軍事委員会の筆頭委員で国防部長の李尚福(前装備発展部長、元戦略支援部隊副司令員で宇宙開発責任者)であるが、その存在が8月29日以来、9月19日現在3週間も不明なのである。こうした現状では、有効な軍事交流の推進は望めず、まして中朝軍事交流云々もないだろう。もし李部長の「更迭」が事実なら今後、国慶節休暇前の9月下旬、あるいは長期休暇を経た10月上旬、緊急の全人代常務委員会が開かれ人事案件が討議、承認されるであろう。いずれにせよ、第3期習近平体制下の中国の「内憂外患」は不透明感を増し、混迷の度合いを一層深めている。
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