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2023-07-31 00:00
第3期習近平体制の内政・外交動向②
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
7月25日、秦剛外交部長(57歳)が解任され、後任に王毅前外交部長(69歳)の就任が公表されて31日で1週間が経過した。この間の26~27日、外交部HPでは「外交部指導者の活動」から秦剛の活動が削除されていたが、28日には王毅外交部長の就任挨拶の掲示とともに秦剛の活動は再度閲覧可能になった。外交部スポークスマンは「HPは更新中だった。深読みする必要はない」と強調したが、現場では混乱が続いている模様である。さらに28日、国務院は人事異動を発表し、楽玉成国家ラジオテレビ総局副局長(60歳 前外交部副部長でロシアンスクール所属とされた)の解任を公表した。楽副局長は2022年6月、外交部から国家ラジオテレビ総局への異動が明らかとなり、当時の王毅外交部長の後任の可能性が潰えたと噂されていた人間である。外交畑出身の秦剛、楽玉成と相次ぐ「更迭」解任人事は一体何を意味するのであろうか、以下細部みていこう。
秦剛の外交部長解任理由は依然として不明であるが、小生は楽玉成の解任報道をみて直ぐに国家ラジオテレビ総局のHPを確認したところ、7月21日に開催された内部会議に楽副局長の後任の楊国瑞が出席していることが判明した。これはすなわち、28日の人事異動発表は「追認」報道でしかなく、20日以前に楽副局長は解任されていたことになるのだ。「親米派」、あるいは「欧米重視派」と目された秦剛の解任を公表する前に、「親露派」筆頭格とされた楽玉成の解任を先行させて外交部内の「路線闘争」に対する無用な憶測を封じた可能性も考えられる。あるいは今後、王毅に続く楽玉成の外交部「復帰」人事があるのか注目されよう。しかし、ここまで考察してきて小生は、こうした人事上の混乱の根本的な原因が何処にあるのかに思い当たった。それは小生が、2022年10月の第20回党大会以降倦まず主張してきた党中央弁公庁主任、党中央組織部長の人事の遅れである。
遡ること2023年3月20日、習近平(69歳、当時)のロシア訪問の随行者の中に、中国共産党中央弁公庁主任の蔡奇政治局常務委員兼書記処筆頭書記(67歳)の名前が確認された。党中央弁公庁は習主席らVIPの日程管理や重要会議の運営、機密情報の管理などを担う党中央の中枢組織であったが、党大会閉幕後も丁薛祥が業務を継続していたのである。そこで中国共産党トップの習総書記の「秘書役」が一体誰になるかと注目していたところ、党内序列5位の蔡奇の就任が確認され、最高指導部である「チャイナセブン」政治局常務委員の中にトップと秘書役が「同席」するという異例の人事となった。しかし、この人事はあまりにも遅すぎるのだ。一部報道によれば、秦剛解任の前日となる7月24日、党中央弁公庁副主任で警衛局長を務めていた王少軍中将が、3か月前の4月24日に病死していたことが明らかになった(享年67)。「習近平のボディーガード」たる王副主任の訃報なら早期に公表されるはずなのに、この遅れは一体何なのかと中国内外で憶測を呼んでいるが小生は、今回の弁公庁主任交代人事(丁薛祥→蔡奇)の異常な遅れ、煩雑な業務引き継ぎの影響があったと推測する。
さらに、決定的だったのが党内の重要人事を取り仕切る党中央組織部長交代人事(陳希→李幹傑)の遅延である。4月26日、ベトナム共産党組織部長との会見の場に出て来たのは、中国共産党中央組織部長の李幹傑政治局委員兼中央書記処書記(58歳)であった。李部長は習総書記の母校の清華大学出身で国務院(政府)生態環境部長、山東省党委員会書記を務めたエリートであるが、人事系統の勤務は皆無で党大会以後の地方人事異動に際して中央から派遣されて臨席したのは習総書記の清華大学同級生・陳希前組織部長(69歳)であった。党中央弁公庁主任や党中央組織部長など中国共産党における要職人事の遅れこそ、秦剛外交部長解任等に象徴される不透明な政治動向の原因であると言っても過言ではなく、中国の内憂外患は混迷の度合いを深めている。
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