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2023-07-26 00:00
第3期習近平体制の外交動向③
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
2023年7月25日、第14期全国人民代表大会(全人代)常務委員会は第4回会議を開催し、秦剛(57歳)を外交部長の職務から解任し、王毅(69歳 中国共産党中央政治局委員兼外事弁公室主任で前外交部長)を外交部長に再度任命する人事任免案を承認した。秦剛が外交部長に任命されたのは2022年12月30日であり、任期は約7か月にとどまり、現職の外交部長が短期間に交代するという事例は小生の記憶にない。本年1月9日付の拙稿で「秦剛の外交部長就任は大幅な若年化人事」とし、王毅の後任人事として多くのVIPの名前が挙がりながら「『黒馬』ダークホースとして秦剛が抜擢され」たと評価した小生からすると衝撃の人事異動となったが、今後の「習近平外交」(Xiplomacy)展開への影響が注目されよう。しかしながら、中国側の資料を確認すると、今回の「更迭」人事が異例の事態であったことが明らかになった。以下、細部みていこう。
まず今回の人事案が上程された会議の前日となる7月24日午後、趙楽際全人代常務委員会委員長(中国共産党中央政治局常務委員で序列第3位)は、同委員長会議(李鴻忠副委員長らが出席)第8回会議を主宰し、25日に第4回常務委員会会議を開催することを決定した。従来の全人代常務委員会会議の日程からすると、前日に議題や日程を決める委員長会議が招集されることはなく、日程がたった1日間という前例もなかった。また、翌25日の第4回常務委員会会議の流れをみると、同午前中に全体会議が開催されて常務委員の法定人数170人の出席が確認され、刑法改正案に関する説明が行われ、人事任免案が審議された。全体会議後には「グループ」(中国語:分組)会議が行われ、午後から趙楽際委員長は、同委員長会議第9回会議を主宰して関連する議題を審議した。委員長会議後に第4回常務委員会の閉幕会議を行い常務委員の法定人数169人が確認されて人事任免案のみ承認したのである。
何故、たった1日間という短期間に、法定人数の確認や「グループ」会議開催など煩雑ともみえる手続きをとって人事任免案1件のみを承認したのか。しかも6月末以来動静不明の秦剛はともかく、後任の王毅も国内にはおらず、25日の全人代会議当日は外遊中であった。すなわち王毅は同日、南アフリカのヨハネスブルグで開催されていたBRICS国家安全保障問題高級代表会議に出席し、中国もメンバーと主張する「グローバル・サウス」(中国語:全球南方)諸国における協力強化を討議していたのである。小生は、今回の人事任免案に「異論」があったと推論する。その理由は7月24日に習近平総書記が主宰した中国共産党中央政治局会議の内容である。表向きは当面の経済情勢を分析・研究して2023年下半期の経済工作方針の提起であったが、政治局会議を報じた記事の末尾にあった「その他事項」人事任免案の研究・決定にあったと思われる。
今回の政治局会議は「当面の経済運行には主として不足する国内需要、一部企業の経営困難、重点領域に潜む多くのリスク・問題点といった新たな困難やチャレンジがあり、外部環境も複雑で厳格だ」と厳しい情勢認識を示し「防疫後の経済回復は、波間にあって曲折しながら前進する過程である」と指摘していた。このような「内憂外患」の最中、習総書記は、現職の駐米大使から外交部長に抜擢した秦剛を更迭して一種の「老年化」人事となる王毅を再登用する人事任免案を急遽、決定したのではないか。しかし、あまりに急激な人事異動であり、「法治」の観点から、あるいは混乱必至の「外交」の観点からも政治局内部で「異論」や議論があったのではないか。それが故に緊急招請された全人代常務委員会は形式上の「法治」を徹底し、「外交」上は前任者起用による「習近平外交」の継続・発展なのであろうが、今後の秦剛の処遇(副総理と同格とされる国務委員の肩書は保持、また紀律検査など党内処分の有無)を含め中国の内政・外交動向は注目を要する。
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