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2023-02-14 00:00
北朝鮮を象徴する言葉-配慮暗殺
荒木 和博
拓殖大学海外事情研究所教授
脱北者で北朝鮮民主化運動に長年携わってきた姜哲煥・北韓戦略センター代表は「平壌24時」というYouTubeチャンネルを運営し、北朝鮮の内部事情に関わる大変興味深いメッセージを発信しています(https://www.youtube.com/@tv9976)。韓国語の分かる方には一度ご覧になることをお勧めします。「しおかぜ」朝鮮語放送の「富士山は知っている」というコーナーにもたびたび出演してもらっています。その「平壌24時」の中で一つご紹介するのは「配慮暗殺」という言葉です。平成27年(2015)12月29日に「交通事故死した」とされている金養建・労働党統一戦線部長が実は「配慮暗殺」されたという話で、これは事故に見せかけた暗殺だと、姜代表は北朝鮮内部からの情報で確信したとのことです。
「配慮暗殺」とは、能力があり、権力中枢の秘密を知っていて、現在は忠誠を誓っているがやがてそれを脅かす可能性がある人物を除去するために事故に見せかけて殺害することだそうです。表だって罪に問う理由がないので事故を偽装し、家族はそのまま地位を維持させる。確かに金養建はときどき出てくる宋日昊のような、対日担当とは言いながら権力もなく、酒を飲んで偉そうにしているだけの人間と比べると格の違う感じはしました。金養建の葬儀は国葬で行われています。対南・対日担当でしたから日本の政治家も会ったことのある人は多く、確か寺越武志さんのお母さんも会っています。「事故」死には北朝鮮権力内部における対南対日の主導権争いも関係した可能性があるようです。
この話を聞いて二つ思い出したことがあります。一つは確かに北朝鮮の幹部はよく交通事故に遭うということです。金養建の前の統一戦線部長金容淳も「交通事故」でした。他にも今名前が出てきませんが交通事故で死んだ幹部がいたと記憶しています。たいして車が走っているわけでもない北朝鮮で、特別扱いの幹部の車がそんなに簡単に事故を起こすでしょうか。他の国で考えても高位層の交通事故というのはあまり聞きません。もう一つは韓流ドラマ「愛の不時着」に出てくる暗殺部隊のトラックです。主人公で北朝鮮人民軍の将校である李ジョンヒョクの兄は乗っていた車をこれにぶつけられて殺害されます。「いくら何でもこんな面倒なことはやらないだろう」と思ったのですが、そこまで考えたドラマだったのか…。
このドラマは北朝鮮でも大人気で、当局は他の韓流コンテンツより「愛の不時着」を見た人間を厳罰に処しているようですが、ひょっとしたら内心ドキリとした幹部がいたのかも知れません。いずれにしても「配慮暗殺」というのは色々な意味で北朝鮮を象徴した言葉のように思います。
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