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2007-09-03 00:00
連載投稿(1)東アジアにおける越境労働移動の地域化とその実態
首藤もと子
筑波大学教授
東アジアでは、所得水準の大きな格差と労働需給の不均衡があるところに、越境労働移動が増加している。それは、産業化や都市化に伴う農村から都市への人の移動の延長ということではなく、とくに民間斡旋業者を通した場合は、地方から国外の雇用先に直結している。そこには斡旋業者間の人脈があるが、それと別に越境的な就労者のネットワークもそれ自体の機能を拡大しつつある。こうした海外就労の奨励は、早くはマルコス政権期のフィリピンが1970年代半ばから国策として実施してきた。インドネシアでも80年代後半から急増して、アジア通貨危機以後は、一層増加傾向にある。
もちろん、越境的な労働移動自体は新しい現象ではなく、東アジアに限られた現象でもない。実際に、移住労働者による本国への送金額は、正規ルートの送金だけでも1990年代後半から世界のODA総額を上回っている。とくに途上国への送金額は同地域へのODA供与額の2倍以上に達するとみられている。しかし、1990年代以降東アジアで市場の融合が進み、ASEANをハブとする形式で多国間政策協議が定例化している現在、そこに展開する越境的な労働移動の量の増加は、国際関係の質の問題に転化しうる。また、越境的な人の移動に関する政策的対応が、出身国だけでなく地域的にも必要になっている。
東アジアで有数の労働力送出国であるフィリピンやインドネシアの国外就労者は、その約6~7割強が女性であり、そのほとんどは家事労働または工場で働いている。香港やシンガポールでは、フィリピン人よりインドネシア人の賃金が低水準にあり、それもまた後者の雇用が増えた背景の一つとなっている。インドネシアでは、各地で多数の斡旋業者が渡航に必要なビザ、パスポート等の書類一式を整え、数週間で就労に必要な基本的な語学や生活慣習、技能等を教える。これに航空券を含めた費用総額は斡旋業者が前払いして、当人は雇用先で働き始め、給与を得るようになってから7~8カ月をかけて業者に分割返済するというのが一般的な方式である。これにより、手許に余裕のない就労希望者も国外に働きに出ることが可能になる。
しかし、家事労働の場合、香港を除けば、ホスト国で労働基準法が適用されず、雇用契約の内容も出身国や斡旋業者によってかなり異なる。彼女たちは、外国の雇用者の家に着いても、雇用者の気分次第で即日クビになったり、夜中に追い出されたりすれば、斡旋業者への負債だけを残して帰国するか、さもなければ早晩不法滞在者になる。工場労働の場合は、雇用者がコスト削減のため不法就労を黙認し続けたあげく、給与未払いのまま、突然クビにすることもある。(つづく)
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