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2023-01-09 00:00
第3期習近平体制の内政・外交動向
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
皆様あけましておめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします。
振り返ってみれば小生の「eー論壇」デビューは2020年2月のことであった。中国における「COVID-19」感染拡大に際した「中国版FEMA」応急管理部の不手際、存在感の無さへの疑問が投稿のきっかけであった(当時の「議論百出」論稿参照)。あれから約3年が経過し、小生は「応急管理部の解体・再編」の可能性さえ予測したが、逆に同部門の機能・権限強化が打ち出された模様である。2023年1月6日、応急管理部の隷下に「国家消防救援局」が成立し、第一政治委員に王祥喜応急管理部長(3代目部長)が就任し、従来の国家総合消防隊司令官のリョウ(サンズイに京)色が局長、同政治委員に徐平が任命された。その狙いは中国の応急管理システムの改善であり、災害・事故発生時の応急処置能力の向上であり、「重要・特大事故の防止・抑制こそ安全生産活動の第一の任務である」(王部長の言葉)とされた。その契機は何であったのか、以下昨年年末から本年年初までの中国の内外動向をみていこう。
2022年12月26日から27日まで中国共産党は政治局民主生活会を開催した。同生活会のテーマは10月の党大会精神の徹底であり、習近平総書記が主宰して新期政治局メンバーに対し、個別の指導を行った。すなわち習近平自ら「政治局メンバーの発言に対して評価を行い、逐一要求を出して総括を行った」とされ、特に「最も重要な職務遂行能力とは政治的な能力であり、政治における判断力・理解力・執行力の向上である」と強調し、指導幹部、特に高級幹部の「作風こそ従来、党と社会の風紀の重要な道標となり、人民大衆が観察する重要な窓口となる」と主張した。そして、習総書記は「政治局委員は自ら率先垂範して清廉・廉潔になると同時に、その身内・親族にも厳格に対処し、彼らが自分の権力や影響力を使って不当な利益をあげないようにせよ」と厳命し、厳しい鞭を入れたのである。
他方、12月28日付の香港紙「星島日報」HPによると、焦眉の課題である「COVID-19」対策のための「中央疫情対応工作指導小組」が、同民主生活会前日の25日に開催され、組長には李克強総理に代わって現在の党内序列ナンバー2の李強が就任したとされた。同小組は2020年1月26日にに設置されてから6月4日まで通算32回の会議を開催して以降「休眠」状態であったが、また再始動したのであろうか。しかし、公式の中国メディアには全く出ていない。「星島日報」の報道によれば、メンバーとして不変の副組長(組長代理)は王コ寧(前筆頭書記処書記でナンバー4)、組員の丁薛祥(党中央弁公庁主任、習近平の秘書役でナンバー6)、王毅(前外交部長で党中央外事弁公室主任)、肖捷(国務院弁公庁主任、李総理の秘書役)がおり、新規のメンバー(組員)には李書磊党中央宣伝部長(黄坤明前部長と交代)、尹力北京市党委員会書記(蔡奇前書記と交代)、劉国中(政治局委員、前陝西省党委員会書記)がおり、治安担当の趙克志前公安部長は外れていたのである。小生は、同報道に接して「遅いかもしれないが李強は、年末の全人代常務委員会で李克強総理から職務を受け継ぎ、総理代行に就任するのではないか」と予想していたが実現しなかった。ところが、香港情報に出た劉国中政治局委員の行動には驚いた。2023年1月1日元旦から3日まで劉政治局委員は、内陸部の四川省・重慶市の調査研究を行い、12月から始まった新段階の防疫活動について現地で措置を徹底したのである。これは、あたかも衛生工作担当である孫春蘭副総理の代行のようであり、3月の全人代会議における人事が注目される。逆に1月3日、現職の李克強総理は国務院常務会議(定例会議)を主宰し、民生用の商品やエネルギーの安定確保・価格維持等の活動をしっかり行うよう指示し、1月21日旧正月における安寧を確保するように強調しており、李強の存在感は相変わらず希薄のままである。
ここで中国の外交動向をみてみよう。ロシアのウクライナ侵攻が継続される中、中露関係における習近平国家主席とロシアのプーチン大統領の「蜜月」状態は不変であり、2022年12月30日にはTV会談が行われ、翌31日には新年メッセージ交換まで行われた。他方、同時期の12月30日、「新冷戦」状態にあるとされる米中関係には、中国側から新たなシグナルが発信された。現職の王毅外交部長(69歳、党中央外事弁公室主任へ異動)に代わって秦剛駐米大使(56歳)が在職中、新たな部長に任命されたのである。1月5日、駐米大使は免官(後任は未発表)となったが、秦剛の外交部長就任は大幅な若年化人事となった。従来、王毅の後任には宋濤前党中央対外連絡部長(67歳、元外交部副部長)、劉結一台湾事務弁公室主任(64歳、元国連大使)、楽玉成外交部副部長(59歳、ロシア派外交官)の名前が挙がっていたが、「黒馬」ダークホースとして秦剛が抜擢され、宋濤は台湾事務弁公室主任となり「老年化」(ベテラン起用)人事となった。1月1日、外交部長に就任した秦剛大使は、米国のブリンケン国務長官と早速電話会談を行い、「大使就任後に率直かつ深く、建設性に富んだ会見を行った」とし「ブリンケン長官とは密接な関係を引き続き維持し、米中関係の改善と発展を推進するよう期待したい」と強調したことから、ブリンケン訪中は旧正月後に実現する可能性が高いのではないか。
最後にまた最近の中国の内政動向に戻ろう。2022年末、中国共産党の政治局民主生活会で習近平総書記から直々に「鞭が入る」、要は指導された部門は恐らく政法部門であろう。12月29日、中央政法委員会全体会議を主宰した陳文清書記(政治局委員兼書記処書記で前国家安全部部長 62歳)は、政策転換が行われた防疫活動を口実にした「浸透・破壊活動、デマを飛ばした紛糾活動、社会秩序を擾乱するような行為に対しては断固として法に基づいた処理を行って国家の安全と社会の安定を維持しなければならない」と強調した。さらに、1月7日から8日までは中央政法工作会議が開催され、政法部門の近代化を訴える習党総書記の重要指示を陳政法委員会書記が伝え、王小洪同副書記(中央書記処書記兼公安部部長 習総書記の側近)は会議を主宰して総括演説を行ったとされ、防疫活動をめぐる中国内外の混乱は「力技」強硬措置で対処、乗り切ろうとする習近平指導部の思惑がうかがえる。
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