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2022-12-26 00:00
第3期習近平体制の外交動向②
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
先ずは12月25日付拙稿の記述内容を訂正したい。中央農村工作会議に関する記述で胡春華副総理への言及に続き「これは衛生・文教担当の孫春蘭、経済貿易担当の韓正の両副総理の実務にも言えようが、全く不分明である」という部分の後段は「経済貿易担当の劉鶴」が正しい。韓正も副総理であるが、彼は前期政治局常務委員で李克強総理に続く筆頭副総理であった。付け加えれば胡春華、孫春蘭、劉鶴ら全員、前期政治局委員であり、それなりの権威付けが為されており、来年3月に発足する予定の新たな国務院指導部(総理、副総理、国務委員)も同様の処遇となるであろう。そして、今回は12月25日、新たに政治局委員となった王毅国務委員兼外交部長が、「2022年の国際情勢と中国外交」シンポジウム開幕式で行った演説の内容を考察し、中国外交の回顧と展望を試みたい。
「世界を胸に抱き勇気をもって前進し、中国の特色ある大国外交の新たな詩文を創作しよう」と題する王毅演説は、「2002年の世界は変革と動揺が続き、団結と分裂が相互に激動を招来した。人類社会というこの巨大な船舶は、世紀の疾病という波濤を越えながら、地域衝突という台風、陣営対立という渦巻、インフレの暗流、エネルギー欠乏という寒流にも遭遇して、その前途には転覆の危険が充満していた」と悲観的な情勢認識で切り出されながら、同時に「こうした危機は変革をもたらし、希望もはらみ、世界で絶対多数の発展途上国に団結強化を自覚させ、積極的に協力しあい、変化に従容として対応するようにさせた。新たな世界の情景においては、衝突・対立・抑制・脱落は潮流に背を向けて必ず失敗するが、平和・発展・協力・ウインウインこそ人心、大勢の赴くところである」とも主張した。そして、こうした国際情勢に対して2022年の中国は「習近平同志を核心とする中国共産党中央が、全党全国各民族人民を団結させ、これらを率いて力を合わせ難局に立ち向かい、国内・国際という大局、防疫活動と経済社会の発展をそれぞれバランスをもって治め、党と国家の事業で新たな、偉大な成果を獲得した」とし、「特に(10月の)第20回共産党大会の開催という勝利は、社会主義近代化国家の全面的な建設、中華民族の偉大なる復興の全面的な推進における広大な青写真を描き、人類が直面する共通の問題解決のために貢献する中国のプラン、及び変化して錯綜する世界に対して貴重な確実性と安定性を提供した」と強調したのである。では、2022年の中国外交の成果とはいかなるものであったのか。
王毅外交部長は、「中国の特色ある大国外交の成果」として以下の8つを挙げた。すなわち①活発な元首外交、②大国関係の戦略的な安定維持、③開放的な地域主義に基づくアジア諸国との関係発展、④発展途上国との団結・協力、⑤グローバルな挑戦への建設的な参与と対応、⑥強権覇権を恐れず国家の核心的な利益と民族の尊厳の維持、⑦グローバル経済の復興へのチャンス提供、⑧海外同胞の利益への配慮である。①の元首外交であるが、これは「一大主戦場、二大提案、三大訪問」というキーワードにまとめられた。主戦場とは2~3月の北京冬季オリンピック・パラリンピックのことであり、二大提案とは4月の海南省ボーアオアジアフォーラム(BAF)におけるグローバル安保提案、6月のBRICS会議におけるグローバル発展提案であった。しかし、これらは2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻によって全く見向きもされない「空手形」に終わった。「元首外交」、中国流に言えば「Xiplomacy」(習近平外交)における唯一の成果は「三大訪問」(中央アジア、東南アジア、中東の三地域への外交)になる。それらは9月のウズベキスタン・サマルカンドにおける上海協力機構(SCO)元首理事会、11月のインドネシア・バリ島におけるG20サミット、タイ・バンコクにおけるAPEC首脳会議、12月のサウジアラビア・リヤドにおける中国・アラブ諸国サミット、中国・湾岸アラブ諸国協力委員会サミットへの習近平国家主席の参加である。これら5回にわたる多国間サミットへの参加、その際に行われた40数か国指導者との二国間会談は、2020年2月のミャンマー訪問以来約2年半ぶりの要人外交の展開となった。次に②の大国関係の維持であるが、トップは米中二国間関係である。「米国の誤った対中政策に断固反対し、正しい路線を模索する」と題する部分は、2022年の米中関係が台湾問題を中心に激動の関係にあったことを赤裸々に示し、「我々は米国が信義を守り、バイデン大統領が示した積極的な表明を行動に移し、中国に対する抑制・圧力、中国内政への干渉、及び中国の主権・安全・発展・利益への損害をそれぞれ停止し、双方が意思疎通・協力できるような良好なムードを作るよう促す」とし、「米国が根本からやり方を変え、客観的かつ理性的な対中認識を打ち立て、積極的かつ実務的な対中政策を遂行し、米中関係の健全かつ安定的な発展のため一緒に骨組みと地盤を建設するよう要求する」と強調した。しかしながら、同演説の2日前、23日に行われた王毅外交部長と米国のブリンケン国務長官との米中外相電話会談は意見の応酬になった模様であり、王部長は「米国は対話しながら抑圧してならない、協力を話し合いながら武器をちらつかせてはならない」とし、「米国は必ず中国の正当な関心を重視し、中国の発展への抑圧を止め、特に『サラミを切る』ような方式で中国のレッドラインをいつも挑発するようなまねをしてはならない」と厳命しており、調整中のブリンケン訪中は難航が予想される。他方、中露関係は盤石である。今回の王毅演説には、ロシアのウクライナ侵攻への言及は一切無く「非同盟・非対抗・第三国向けではないという基礎にある」中露関係は、「いかなる干渉も挑戦も受けず、いかなる情勢変化も恐れない」とされた。それが証拠に12月21日、事前の予告なくロシア前大統領で、与党「統一ロシア」党党首のメドベージェフが訪中し、習近平国家主席と会談した。習主席は、「プーチン大統領の特使」であるメドベージェフ党首に対し、「中国はロシアとともに、新時代の中露関係を前進させ、共にグローバルな国際社会管理を公正かつ合理的な方向へ発展させるようにしたい」とし、メドベージェフも「中露両国の経済貿易、エネルギー、農業などの領域における協力を積極的に推進し、外部からの各種圧力や不公正な措置に対して共に抵抗し、全面的、かつ戦略的なパートナーシップ関係を大いに発展させたい」と応じており当面、中国が「ウクライナ危機」解決のため、ロシアとウクライナの間に立って仲介や斡旋の役割を果たす可能性は低いと思われる。では、③アジア諸国との関係はどうであろうか。習近平国家主席が訪れた東南アジア、中央アジアに続き日中関係について言及があり、両国は「国交正常化50周年を共に祝い、両国指導者は3年を経て初の対面会談を行い、日中関係の安定と発展について重要な共通認識に達した」とし、「双方は歴史を鏡とし、誠実に対応し、信義をもって交流し、後退せず無茶をせず、遠方をみて前向きに進み、戦略的な高度から二国間関係の大方向をしっかりと定めなければならない」と主張したが日本の安保戦略への言及・批判が無く、対米関係とは異なり細部の対日施策は明らかでない。岸田外交への「模様眺め」がまだ続くということであろうか。
2022年の回顧に続いて王毅外交部長は、2023年の中国外交における六大任務を明らかにした。それらは①元首外交の一層の展開、②全方位外交への十分な準備、③地球上の最大公約数集約、④ハイクオリティな発展と対外開放への関与、⑤国家の利益維持のための強力な防衛ラインの構築、⑥国際的な発信能力と「ランゲージ・パワー」(中国語:話語権)の向上である。依然として猖獗を極めるコロナ禍にもかかわらず明年、習近平ら中国共産党要人の外交は活発化する模様である。特に中露関係の深化、米中関係の改善、欧州との関係発展が強調され、周辺諸国との友好・相互信頼の強化と利益融合、発展途上国との協力も主張された。そして、小生が注目したのが④対外開放の施策として2013年、習近平が提起して10年の節目となる「一帯一路」構想が、あらためて強調されたことである。対外的な批判も全く顧みず、明年第3回国際協力サミットを計画し、これが世界の「発展ベルト」(中国語:発展帯)として繁栄し、人類の「幸福ルート」(中国語:幸福路)がもっと広くなるとする中国の主張には唖然とせざるを得ないが、これが中国であり中国人の在り様である。他方、「外交は内政の延長」であり、現行のコロナ禍へのハンドリング次第では不安定化する可能性の高い中国の社会治安情勢、今後の習近平ら要人動向には注視する必要がある。
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