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2022-11-05 00:00
第3期習近平体制の人事的特徴
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
中国共産党第20回全国代表大会(二十全大会、以下「党大会」と略する)が10月末に閉幕し、第3期習近平体制がスタートして2週間が経過した。今回、過去10年間より一層進んだ習近平・総書記・中央軍事委員会主席への権力集中を、党や軍の指導部人事から分析してみたい。
中国共産党の「最高指導部」である中央政治局常務委員会は、いわゆる「チャイナ7」(7人構成)を前期から維持したが、新人4人(ナンバー2の李強63歳、ナンバー5の蔡奇67歳、ナンバー6の丁薛祥60歳、ナンバー7の李希66歳)は全て習近平子飼いの側近であった。今回の党大会は言わば、「習近平の、習近平による、習近平のため」の統治体制成立を内外に誇示、喧伝するものとなり、巷間噂された毛沢東時代の「党主席」制度の復活や「人民の領袖」の肩書付与は全く必要なかったと言える。以下は先ず、常務委員会の基盤となる中央政治局の人事を取り上げる。ざっくりと民間会社に例えるなら、党大会は株主総会、政治局は取締役会、常務委員会は上級取締役で構成される常務会といったところであろうが、今期の政治局メンバーは前期から1人減って24人となり、胡錦涛総書記時代の2002年以来20年振りの減員となった。24人のメンバーの内、13人は前期からの続投(2人は他組織からの転任扱い)で11人が新任だった。
続投した13人の内7人は習近平ら「チャイナ7」の常務委員で、残る6人は①李鴻忠・天津党委員会書記66歳、②軍人の張又侠・軍事委員会副主席72歳、③陳敏爾・重慶市党委員会書記62歳、④黄坤明・前宣伝部長・広東省党委員会書記(李希・政治局常務委員・中央紀律検査委員会書記の後任)66歳、⑤李書磊・新宣伝部長・中央書記処書記(紀律検査委員会委員会副主席から転任)58歳、⑥何立峰・国家発展改革委員会主任(政治協商会議副主席から転任)67歳である。③陳敏爾や⑤李書磊以外の4人は引退年齢とされた65歳を超え、軍人の張副主席は70代である。しかし、トップの習総書記自ら常務委員引退年齢とされた68歳を超えているのだから今後、要人登用で年齢は問わず「経歴」(要は習総書記とのコネ)重視ということであろうか。事実、④黄坤明は党中央宣伝部長から「論功行賞」か、広東省党委員会書記に就任するという異例の出世となっている。逆に10年前、49歳で内蒙古自治区トップから政治局委員に抜擢された胡春華副総理はまだ59歳でありながら「落選」してヒラの中央委員に格下げとなった。
新任政治局メンバー11人の内、7人は地方の党委員会書記・副書記からの抜擢であり、新疆ウィグル自治区、福建省、陝西省、山東省、遼寧省、北京市、浙江省が対象地域となった。中でも陳吉寧・前北京市長(同党委員会副書記)58歳は、習近平に次ぐナンバー2の常務委員となった李強に代わって上海市党委員会書記に就任した。残りの4人は王毅外交部長69歳、元寧夏回族自治区トップで社会科学院院長であった石泰峰・中央書記書記・統一戦線工作部長66歳、軍人の何衛東・軍事委員会副主席65歳、陳文清・中央書記処書記・中央政法委員会書記(前国家安全部長)62歳である。ここで内外の報道では、ほとんど取り上げられない習総書記の日常の党務を取り仕切る中央書記処(書記局)の人事についてみてみよう。
今回の党大会では書記処メンバーが一新され、ナンバー4の常務委員となった王コ寧67歳に代わって筆頭書記となった蔡奇67歳は、前期の政治局委員からナンバー5の常務委員となった。蔡奇は、習総書記が浙江省のトップを務めていた頃の部下であり、今なお首都・北京市党委員会書記のままである。他の書記処書記6人も、今期は4人が政治局委員を兼務しており、職務執行の面で「権威付け」されている。彼らは先述した石泰峰統一戦線工作部長、陳文清政法委員会書記、李書磊宣伝部長に加え李幹傑・山東省党委委員会書記(前環境保護部長)58歳である。従来の人事傾向からすれば、この書記処メンバーから党内人事担当の組織部長、習総書記の「秘書室長」である弁公庁主任という要職が選ばれるのだが、今なお公表されず前期の陳希組織部長や、ナンバー6の常務委員に「昇格」した丁薛詳主任が、党大会直後の習近平の陝西省・河南省視察に随行している。そして小生が、今回の書記処人事をみて異例と思えるのが、広く国内治安を含む中国の安全保障を主管する政法委員会の重用である。政治局委員兼務にならなかった書記2人は劉金国・紀律検査委員会副書記67歳と王小洪・政法委員会副書記(公安部長)65歳である。政法委員会の「ツートップ」である陳文清書記・王小洪副書記2人が同時に中央書記処入りしたというのは史上初めてのことであり、習総書記が今後の民族問題、社会騒乱など不安定要因への対処を重視している表れであろう。
他方、主として対外安全保障を主管する軍の最高指導機関である中央軍事委員会の人事はどうなったか。今期の陣容は主席に習近平69歳、副主席は留任の張又侠(元装備発展部長で習主席の幼なじみ)72歳と新任の何衛東・前東部戦区司令員65歳の2人。委員は新任の李尚福・装備発展部長(宇宙開発も主管)64歳と劉振立・陸軍司令員58歳、留任の苗華・政治工作部主任(元海軍政治委員)67歳と張昇民・軍紀律検査委員会書記(元第二砲兵政治部主任)64歳の4人で総勢7人体制を前期から継続した。これは軍事委員会のスリム化を維持し、軍務における迅速な意思決定システムの形成を志向する習主席の意向であろう。したがって今回、ヒラの党員から初めて中央委員会委員に選出されると、一気に政治局委員にまで抜擢された何衛東副主席の存在が注目されよう。何副主席は党大会前、台湾正面の東部戦区司令員から北京の聯合作戦指揮センターへ異動したとされ「対台湾シフト」強化の一環と報道された。しかし、軍種間の勢力構成をみれば、文官である習主席を除く6人の軍人は陸軍上将4人(張又侠、何衛東、李尚福、劉振立)、海軍上将1人(苗華、ただし陸軍からの兵科転換者)、ロケット軍上将(張昇民)となっており、海・空軍、ロケット軍(特に作戦畑の将官)の存在感が薄く、かつての「陸軍重用」体制復活を彷彿とさせるのだ。このような中央軍事委員会の指揮下、対台湾武力統一を真に目指すとしたら将来、習主席は心もとなくならないのだろうか。
以上みてきたように政治局常務委員会は7人、その事務処理機構である書記処も7人、軍事指導機関である中央軍事委員会も7人と、それぞれ「チャイナ7」体制を構成しており、習近平は党務・軍務で、これら重要機構を動かしていくのであろう。11月4日、政治局常務委員である李強は、かつての勤務先である馴染みの上海市を訪れ、第5回中国国際輸入博覧会開幕式典に出席した。同式典には新任の陳吉寧・上海市党委員会書記も出席したが、式典を仕切ったのは対外貿易担当の胡春華副総理であった。胡副総理の心中穏やかでなかったことは明らかだが、一部論者が言うように「習近平体制から今回外れたのは、未来の復権への有力な証左になる」ことも確かであることから、今後の要人動向が注目される。
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