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2022-09-09 00:00
ペロシ氏訪台のアジア太平洋の国々への反応
古村 治彦
愛知大学国際問題研究所客員研究員
ナンシー・ペロシ米連邦下院議長が台湾を訪問し、それに中国が反発、軍事演習を行うなど緊張が高まった。しかし、アジア太平洋の国々は、少数のおっちょこちょいを除いて冷静に反応した。今回はそのことについての記事をご紹介する。台湾(中華民国)が国連での加盟資格を喪失して以降、台湾は多くの国々との正式な外交関係を喪失している。もちろん、そうした国々との非公式な関係、経済関係は持っているので、世界から完全に孤立している訳ではない。半導体の生産拠点として確固たる地位を築いている。しかし、公式的には外交上の関係はない国がほとんどだ。台湾と正式な外交関係を結んでいるのは十数カ国に過ぎない。それらの国々は中米と太平洋地域に多い。近年では中国の外交攻勢もあって、ソロモン諸島、キリバス、パプア・ニューギニアなど、台湾との正式な外交関係を終了させる国々も出ている。
今回、ナンシー・ペロシ米連邦下院議長が台湾を訪問したことは中国を苛立たせた。しかし、それ以上の影響も効果もなかった。ペロシ議長が訪台したからと言って、台湾に対してより肩入れをする国は出現しなかった。インド太平洋地域において、台湾防衛を明言し、アメリカと一緒にやってやるぞと意気込む国は出てこなかった。アメリカと日本とオーストラリアがややそれに近い態度を示したが、クアッド4カ国の枠組みで重要な参加国であるはずのインドは日米豪の共同声明には加わらなかった。また、米韓同盟でアメリカとは緊密な関係を持つ韓国の場合には、ペロシが訪問しても大統領が直接会うことはなかった。アメリカの勢い込んだ態度に付き合わされて馬鹿を見るのは嫌だ、という考えが明らかだった。
東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟の国々も静観の構えだった。フィリピンだけがややアメリカ寄りの姿勢を示したが、それ以上ではなかった。こうして見ると、台湾をめぐっては、「中国対アメリカ・日本・オーストラリア」という構図になっていることが分かる。日本とオーストラリアのおっちょこちょいぶりもなかなかなものだが、アメリカの「属国」である以上は仕方がない行動でもある。「台湾をめぐって戦争なんか起こすなよ。中国も手荒な真似をせずに徐々に吸収するようにしたら良いし(今もそうしているではないか)、台湾もアメリカを引き込んで大々的に中国と戦うなんて馬鹿なことを考えるなよ(そんなことになったら支持しないからな)」というのが大勢の考え方である。
ウクライナ戦争勃発当時、「ウクライナの次は台湾だ」という標語を掲げて騒いでいる向きもあったが、「台湾を次のウクライナにしてはいけない」のである。そのために過激な手段を用いることになる機会を作らないようにするのが肝心だ。アメリカに火遊びをさせない、アメリカの軽挙妄動に付き合わない、という大人の態度が重要で、インド太平洋地域全体がそのことが分かっているようであるのは安心材料だ。日本も大きくは分かっているが、それだけでは済まない事情があり、そのこともまた地域全体で分かっているだろうから、それもまた別の意味で安心ということになる。
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