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2007-08-28 00:00
東アジアにおいて望まれる為替相場政策の「協調」
小川英治
一橋大学大学院教授
一昨年、2005年7月21日に、中国政府は、人民元の対ドル為替相場を2.1%切り上げるとともに、それまで採用していたドル・ペッグ制度(人民元をドルに固定する為替相場政策)をやめて、通貨バスケットを参照とする管理フロート制度へ変更すると発表した(その発表された為替相場政策変更の実際の説明は、別の機会に譲る)。その直後に同日にマレーシア政府も、中国政府に追随して、アジア通貨危機後、1998年より採用し続けていたドル・ペッグ制度をやめて、同じく通貨バスケットを参照とする管理フロート制度へ変更すると発表した。
このようにマレーシア政府が中国政府の為替相場政策変更の発表の同日に同様の為替相場政策変更を発表したことは二つの重要なことを意味する。第一に、中国政府による為替相場政策変更の発表を想定して、マレーシア政府も為替相場政策変更の準備を進めていたことである。実際に筆者が同年3月にマレーシア中央銀行のバンク・ネガラを訪れて、中国政府がドル・ペッグ制度をやめたらどうするかという質問したところ、その答えは中国政府がドル・ペッグ制度をやめることを想定したスタディを進めているとのことであった。7月21日になって、実際に同日というタイミングでマレーシア政府が為替相場政策変更を発表したことには、3月のバンク・ネガラでの話を思い出して、驚いたことを今でも覚えている。
第二は、中国の為替相場政策が制約になって、マレーシアではドル・ペッグ制度が採用されていたことである。もし中国の為替相場政策が制約にならずに、マレーシアで最適な為替相場制度が採用されていれば、マレーシアによる中国政府に追随した発表はなかったであろう。このことは、中国の為替相場政策の制約を受けて、マレーシアが最適ではない為替相場政策を選択していたことの証左である。このように隣国で採用される為替相場政策に影響されて、最適な為替相場政策を選択することができないことを「協調の失敗」と呼ぶ。
この為替相場政策の「協調の失敗」は東アジア諸国の為替相場政策が対ドル為替相場の安定化をめざしたものになっていたことに現れている。対ドル為替相場の安定化は米国との経済取引(貿易取引、直接投資、国際金融取引)を考慮に入れたものであるだけではなく、隣国が対ドル為替相場の安定化を図っていれば、それに合わせることによって隣国との為替相場の安定化(あるいは、隣国通貨に対する自国通貨高の防止)も同時に達成できる。しかし、世界中の様々な諸国と経済取引のある東アジア諸国は、ドル・ペッグ制度が危険な為替相場制度であることを、アジア通貨危機の教訓として学んだ。この教訓は、この「協調の失敗」を解消することによって最適な為替相場政策が採用され得ることを意味する。その意味で「協調の失敗」を解消するための為替相場政策の「協調」が望まれている。
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