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2007-08-26 00:00
歴史を歪曲したブッシュ演説
山下英次
大阪市立大学大学院教授
今月22日朝(現地時間)、米国のブッシュ大統領は、ミズーリー州カンザス・シティーで開催されたある退役軍人会(Veterans of Foreign War, VFW)の全国大会で「テロとの戦い」に関する演説を行なった。私は、その時、第5回NEAT(東アジア・シンクタンク・ネットワーク)総会に参加するため、シンガポールに滞在していたが、当日夜、ホテルの部屋で、テレビ・ニュースの BBC World を通じて、リアル・タイムでその演説を見聞きした。率直に言って、かなり強い嫌悪感を抱いた。
また昨日、ホワイト・ハウスのホームページからスピーチのフル・テキストを取り出して、改めて内容を詳しくチェックした。演説の内容もかなり粗雑であるが、今回の演説は表情も身振りも、いつにも増してインテリジェンスに欠けるものであった。このような人物を、再選してしまった米国民の罪、特に「国際的罪」は誠に大きい。ブッシュは、なかなかユーモアのセンスはあるし、個人的にはおそらくナイスガイなのであろう。しかし、大リーグ野球チームのテキサス・レインジャーズのオーナーぐらいである分には何の問題もないが、明らかに合衆国大統領になるべき人物ではない。
アメリカは、すでに第2次世界大戦より長い期間にわたって、イラクで戦争をしている。元々、イラクに攻撃を仕掛けたこと自体、ひどくピント外れの行為なので、自業自得というほかないが、まさに文字通りの大失敗である。そして、それはブッシュ政権の政策上の愚行の連鎖がもたらした当然の帰結なのだ。
いまや、戦後の日本の成功体験が、ブッシュ政権にとって、イラク戦争を続ける最大の支えになっているようである。軍国主義・全体主義でアメリカの敵であった日本に第2次大戦で米国が勝利したからこそ、日本の民主化が実現し、そしていまや米国の非常に緊密な同盟国なっているではないか。イラクでも、米国が粘り強く戦い勝利すれば、イラクも民主化に成功する。だから、イラクでも撤退せずに、今後とも粘り強く戦い続けようという主張である。
しかし、こうした見方は、歴史のみならず現在をもひどく歪曲化したものであり、粗雑・粗暴極まりない。日本に民主化をもたらしたのは、100%米国のおかげだとでも言いたいようだが、日本には第2次世界大戦の遥か前に大正デモクラシーが存在した。そもそも、今日、成熟した民主主義国の中で実現されている民主主義の水準が最も低い国は米国なのであり、民主主義について他人にレクチャーする立場にはないはずである。ブレジンスキーは、近著の中で、「アメリカのシンボルはもはや自由の女神ではなく、アル・グレイブ収容所になってしまった」と述べている。
ところで、今回のスピーチ・ライターは、エド・ガレスピー(Ed Gillespie)という新任の大統領補佐官(元ワシントンのロビイスト)だそうである。これまで非常に影響力のあったカール・ローヴ(Karl Rove)次席補佐官(テキサス出身)が間もなく辞任するので、このガレスピーがホワイト・ハウスで今後大きな影響力を持つのではないかと8月19日付け「ファイナンシャル・タイムズ」は伝えている。この人物の名前を覚えておくことにしよう。今後もなお続くであろうブッシュ政権の愚行の連鎖に深く関与していくはずである。
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